コラム

東京都美術館にて開催
『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』
見どころを紹介

 東京、上野の東京都美術館にて1/23から開催、『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』の概要、見どころを解説します。

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レポート編 『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』を東京都美術館にて 開催初日に行った感想 - Art-Exhibition-Tokyo

名作の数々が一堂に会する そのほとんどが初来日

 ブリューゲル一族は、16、17世紀のヨーロッパにおいて最も影響力を持った画家一族の一つです。本展では、そのブリューゲル一族が描いた宗教画、風景画、寓意画、静物画などおよそ100点が展示されます。その多くが、普段美術館では観ることのできない貴重なプライベート・コレクションに収められているため、出品される作品のほとんどが日本初公開となります。また彼らの作品を通して、16、17世紀フランドル絵画の全体像にも迫ります。

天才画家一族『ブリューゲル一族』

一族の祖、ピーテル・ブリューゲル1世

 16世紀のフランドル(現在のベルギーにほぼ相当する地域)を代表する画家であり、一族の祖でもあるピーテル・ブリューゲル1世は、現実世界を冷静に見つめ、ときに皮肉も交えながら聖書の世界や農民の生活、風景などを描き、生前から高い評価を得ました。

ピーテル・ブリューゲル1世(下絵)、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(彫版)《春》 1570年 Private Collection

 そして、この観察眼は、子から孫、ひ孫へと受け継がれ、一族の絵画様式と伝統を築き上げていくことになります。

父のコピーに生涯徹した長男

 長男のピーテル・ブリューゲル2世は、人気の高かった父の作風を受け継ぎ、忠実な模倣作品(コピー)を制作しました。父の時代には一般市民が絵画を購入することはできなかったため、父ピーテル1世の作品はそのほとんどを王族や貴族がコレクションしていました。しかし、ピーテル2世の時代には経済的な余裕が生まれた中流階級の人々を中心に、王族や貴族が所有する絵を自分の家にも飾ってみたいという人がたくさん現れたため、ピーテル2世が描いた父のコピーは非常に需要があったのです。また、ピーテル1世が描いた原画はすでに消失してしまったものが多いなかで、その息子による模倣作品たちは生前のピーテル1世の作品を知る上で重要な存在なのです。

 本展に出品される《野外での婚礼の踊り》は、父ピーテル1世が好んで描いたフランドルの農民たちの婚礼の様子を模範にして描かれた作品です。父が複数描いた同名作を徹底的に研究し、構図や色彩、農民たちの生き生きとした表情などを忠実に模倣しています。

f:id:async-harmony:20180122181633p:plainピーテル・ブリューゲル2世《野外での婚礼の踊り》1610年頃 Private Collection

「花のブリューゲル」と呼ばれた次男

 一方で次男のヤン・ブリューゲル1世は、兄のように父の模倣だけには留まらず、花などの静物を積極的に描くなどして新たな画風を確立させ、「花のブリューゲル」などと呼ばれ名声を得ました。中流階級向けの絵を描き苦しい生活を送っていた兄とは対照的に、ヤン1世はカトリック枢機卿やオーストリア大公といった超エリートを顧客に抱えており、家を6軒持つ資産家だったそう。

ヤン・ブリューゲル1世 ヤン・ブリューゲル2世 《机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇》 1615-1620年頃 Private Collection

 その後ヤン1世の息子ヤン2世も、子供の頃から父の工房で絵を学びやがて画家になりました。そんな父子による共作の作品も多く制作されており、本展にも出品されています。

そしてその子孫へと受け継がれる

 ヤン2世の息子たちもまた同じ道を歩みます。アブラハム・ブリューゲルは父の工房で腕を磨いた後、10代の頃から画家として活躍しました。

f:id:async-harmony:20180122200423p:plainアブラハム・ブリューゲル《果物の静物がある風景》 1670年 Private Collection

 ヤン1世の娘バスハシアの子ヤン・ファン・ケッセル1世は、動物画を得意としましたが、なかでも昆虫の細かな描写は巧みな観察眼の持ち主であることをうかがわせます。

f:id:async-harmony:20180122200808p:plainヤン・ファン・ケッセル1 世《蝶、コウモリ、カマキリの習作》 1659年 Private Collection, USA

  このようにして一族は150年にも渡って画家を輩出し続け、その作風を受け継ぎ、やがて「ブリューゲル」は一つのブランドとして確立されていくのです。

(公式WEBサイトより)

ピーテル2世とヤン1世の意外なルーツ

 一族の始祖であるピーテル1世が亡くなったのは1569年のこと。長男のピーテル2世は5歳頃、次男ヤン1世はわずか1歳頃のことでした。父と同じ道を歩み、父の作品の模倣作も描いている2人ですが、当然父から直接絵の指導を受けたわけではありません。父の工房にはお手本となる作品も残されていたとされますが、2人に絵の手ほどきをしたのはピーテル1世の義理の母で、2人にとっては祖母にあたるマイケン・ヴェルフルストだといわれています。彼女は当時としては珍しい女性芸術家で、1567年に出版された書物のなかでも、最も優れた女性芸術家の1人として取り上げられるなど高い評価を得ていました。

工房作と共作

 本展には工房作や共作による作品が多数出品されています。工房作とは、師匠である画家の監督の下、弟子たちは師匠の下絵に基づき描いていきます。人物の表情などの重要な部分を、最後に師匠自身が描くこともあります。たとえ画家本人が直接描いていなくとも、弟子たちは師匠の指示通りに描いているため、作品にはその画家の創意や構想が表されているとみなされたのです。

 一方、ヤン1世とその息子ヤン2世のように、複数の画家が共同で一つの作品を描くことを共作といいます。物語画や寓意的な主題において、人物を描く画家と風景や静物の専門家が分担して描く作例などが多くみられます。共作は画家自身が別の画家に依頼する場合もあれば、注文主が複数の画家に共作での制作を依頼することもありました。

作品はどれも超繊細

 ブリューゲル一族の描く作品は超繊細に描かれているのが特徴です。今回の出展作品には縦・横30cm未満の比較的小さな作品が多く含まれていますが、いずれも驚くほど細部を描きこんでいます。例えば、ヤン1世による《水浴する人たちのいる川の風景》は、わずか17×22cmの作品ですが、水面に映る人影まで細かく描かれています。

ヤン・ブリューゲル1世 《水浴をする人たちのいる川の風景》 1595-1600年頃 Private Collection, Switzerland

余すところなく鑑賞するためにも、単眼鏡やオペラグラスの携帯もおすすめです。

期間限定で作品撮影可能

 開幕記念として1月23日(火)~2月18日(日)の間、2階展示室が撮影可能だそうです。注意事項がありますので、よく確認してルール・マナーを守って撮影しましょう。

最後に

 本展は2012年からヨーロッパ各地で開催され、パリでは20万人を動員した超人気国際巡回展であり、それがいよいよ日本にやって来ます。貴重なプライベート・コレクションの数々を直接観ることができるまたとない機会ですので、みなさんぜひお見逃しなく。

以上『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』 の見どころ解説でした。

開催概要

会場:東京都美術館 企画棟 企画展示室
会期:2018年1月23日(火)~4月1日(日)
休室日:月曜日、2月13日(火) ※ただし、2月12日(月)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)

観覧料金

当日券 | 一般 1,600円 / 大学生・専門学校生1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円
※20名以上は団体料金(前売価格)で観覧可能

前売券 | 一般 1,400円 / 大学生・専門学校生1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料※いずれも証明できるものをご持参ください。

東京展終了後は下記のとおり巡回します。

愛知展

2018年4月24日(火)~ 7月16日(月・祝)豊田市美術館

北海道展

2018年7月28日(土)~ 9月24日(月・祝)札幌芸術の森美術館
※上記の会期終了後、広島県、福島県に巡回予定です。

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