上野周辺 日本美術

アートの視点で「縄文」を観る『特別展 縄文―1万年の美の鼓動』を東京国立博物館にて 感想や混雑状況、見どころを紹介

投稿日:2018/07/20

 上野の東京国立博物館では7月3日(火)~9月2日(日) の日程で、縄文時代の土器や石器、土偶などを展示する展覧会、『縄文―1万年の美の鼓動』が開催中。日本美術史の原点ともいえる縄文の“美”に迫る史上最大規模の縄文展です。大人から子供まで楽しめる本展のレポートを、見どころ紹介とともにお送りします。

日本全国から約200件の「縄文」が大集結

 今から約1万3000年前に幕を開けた縄文時代は、さまざまな発展を遂げながら約1万年ものあいだ続きました。そのなかで生まれた縄文土器は、世界最古級の土器であると同時に、世界の先史土器のなかでも群を抜く造形美を誇ります。しかし、日本で最初の縄文土器が発掘された明治時代以降、縄文の出土品はあくまでも学術的な史料として扱われてきたのです。

 そこに新たな価値観をもたらしたのが、岡本太郎をはじめとする芸術家や作家たちでした。1950年代に彼らによって縄文の美の芸術的価値が見出されたのです。

 そして「縄文」が近年再び注目され、評価が高まっているなか開催される今回の展覧会は、質・量ともにこれまで開催されてきた縄文展を凌ぐ最大級の規模です。6件の国宝、63件の重要文化財をはじめとする、選りすぐりの200件以上が日本全国から集結しています。

これまで知らなかった縄文の美に魅了される

 縄文土器というと、学生のころに教科書で見たときからとても地味な印象を抱いており、そもそもそこにどんな魅力があるのかを考えたことすらありませんでした。今回本展覧会を観に行ったのも、縄文時代という歴史の壮大さに漠然としたロマンを感じたからであって、縄文の土器や土偶それ自体にそこまで興味はなかったというのが本音です。しかし、いざ鑑賞してみると、これまでの縄文に対するイメージは大きく覆されました。

 本展では、展覧会タイトルにもなっているように、縄文の“美”に焦点が当てられています。先述のとおり、「縄文を美術的な視点で観る」という考え方は比較的近年になって生まれたものであり、それを学校の授業で教わったという人はそう多くないでしょう。今回の展覧会は自分にとって、これまでとは違う縄文の捉え方に気づかされる、まさに目から鱗といった貴重な体験になりました。

 出品されているのは、数ある出土品のなかでも一級品といえるものばかりです。その最たるものは、現在6件しか存在しない縄文の国宝であることは言うまでもありません。これらすべてが一度に揃うのは史上初ということで、それだけでも大変貴重なことです。残念ながらうち2件は7/31からの展示ということで、この日は勢揃いした様子を見ることができませんでしたが、それでも不満に感じないほど充実した内容に大満足です。

 縄文に対してそれほど興味をもてないという方も、ここはひとつ騙されたと思って観に行ってみてください。きっと縄文の魅力に引き込まれることでしょう。

夏休み中につき混雑必至

 少し渋いテーマなので、そこまで混まないのではないかと油断していましたが、会場内は想像以上に混雑しており、この日は平日でしたが、夏休み中ということもあって小さなお子さんや学生さんの姿が多くみられました。会期が夏休みと重なっているため、この先も常に混雑は続くことは間違いないと思われますが、唯一それを回避できるとしたら夜間開館日である金・土曜日の夕方以降でしょう。21時まで開館していますので、お仕事帰りにもおすすめです。

 出品数が200件超と非常にボリュームがあるため、一つひとつじっくり鑑賞するとかなりの時間が必要になります。最低でも2時間くらいはほしいところです。さらに、本展のチケットで常設展も観覧することができるので、そちらもと考えている方は1日がかりのつもりで向かいましょう。ちなみに筆者はこの日、6時間以上滞在しました。

 そして、忘れてはならないのが防寒対策です。夏真っ盛りということで、薄着で向かわれる方が多いと思いますが、会場内はかなり肌寒いので、寒がりの方は上着が必須です。

全6章を通して縄文の魅力を多角的に紹介

 本展は二つの展示室にそれぞれ3章ずつ、合計6章で構成されており、さまざまな視点で縄文の魅力を堪能することができます。ここからは各章の見どころを紹介していきます。

縄文人の美意識に注目

 まずはじめに展開される第1章「暮らしの美」では、当時の人々が暮らしを営むなかで生み出したさまざまな道具に表現された美意識に焦点を当てます。

《微隆起線文土器》青森県六ヶ所村 表館(1)遺跡出土 縄文時代(草創期) 青森県立郷土館蔵

 縄文土器はもともと、煮炊きの道具として誕生しましたが、そこにはただの道具としての役割を超えた“美”を感じることができます。たとえば上の《微隆起線文土器》は、一見単純な文様で立体装飾に乏しいですが、稚拙さは一切なく、むしろ緻密に計算された造形美が見て取れます。

 また縄文人は、髪飾りや耳飾りなどの装飾品を身につけて自身を飾っていました。漆の赤やヒスイの緑、鹿角や貝の白など、そこには現代と変わらない美意識が存在したのです。

重要文化財《土製耳飾》東京都調布市 下布田遺跡出土 縄文時代(晩期) 江戸東京たてもの園蔵

縄文1万年で起こった“美のうねり”を感じる

 第2章は「美のうねり」と題し、縄文土器が約1万年のあいだでどのように変化していったのか、その変遷を三つの時期に分けて紹介しています。

 そもそも「縄文」とは、縄や撚紐を用いた土器の文様のことを指し、それがそのまま縄文時代という名前の由来となっています。縄文時代草創期・早期・前期には、縄の撚り方やその撚り合わせ方、縄を転がす回転方向など、無限ともいえる組み合わせを駆使したさまざまな「縄文」が生み出されました。

重要文化財《片口付深鉢形土器》埼玉県ふじみ野市 上福岡貝塚出土 縄文時代(前期) 個人蔵(東京国立博物館寄託)

 中期になると、粘土が幾多にも貼り付けられた装飾性溢れる土器が登場します。これは、変形させたときに形がそのままになる粘土の可塑性という特性を生かした造形です。

重要文化財《深鉢形土器》群馬県渋川市 道訓前遺跡出土 縄文時代(中期) 群馬・渋川市教育員会蔵

 なかでも代表的なのが、鶏頭冠突起(けいとうかんとっき)と呼ばれる4つの突起が特徴の《火焔型土器》です。このように縄文時代中期には、「縄文」ではなく、粘土の貼り付けや隆線・沈線の組み合わせによって立体装飾を確立させました。

《火焔型土器》新潟県十日町市 野首遺跡出土 縄文時代(中期) 新潟・十日町市博物館蔵

 後期になると立体的な装飾は影を潜め、沈線によって構図を描く、シンプルな文様が重要されるようになります。たとえば後・晩年期の北・東日本の土器では、縄文部と無文部を対比させて構図を際立たせる「磨消縄文」という手法が用いられています。

重要文化《財壺形土器》青森県十和田市 滝沢川原出土 縄文時代(晩期) 文化庁蔵

アジア・ヨーロッパとの比較から縄文の美の特異性を探る

 第3章「美の競演」では、日本列島で誕生した縄文土器と、縄文時代と同時期にあたる新石器時代のアジアやヨーロッパで生み出された土器を比較します。 

 展示された黄土高原(中国)、インダス川周辺地域、メソポタミア、南レヴァント(現在のイスラエル、パレスチナ、ヨルダン周辺)、エジプト、キプロスとアナトリア、ヨーロッパという、七つの地域の土器に共通している点は、いずれも彩色こそ施されているものの、装飾性には乏しく、シンプルで実用性が重視されていることでしょう。

《彩陶鉢》中国甘粛省あるいは青海省出土 新石器時代(後期) 東京国立博物館蔵

 一方で縄文土器、なかでも中期のものは、実用性よりも装飾性を重視した造形であるのは一目瞭然です。縄文中期(紀元前3000〜2000年頃)は、比較的自然環境が安定していたと考えられており、人々のエネルギーは造形へと注がれ、その結果各地で個性豊かな造形物が生み出されたのだと思われます。

重要文化財《焼町土器》群馬県渋川氏 道訓前遺跡出土 縄文時代(中期) 群馬・渋川市教育委員会蔵

 この章の最後には、弥生時代の器物も展示されています。縄文時代のあとに展開された弥生時代には、稲作の開始や社会の発展に伴う生活の変化によって造形に大きな変化が起こります。用途によって多様な器種が生まれ、機能美を追求した非常にシンプルな造りが特徴です。

国宝6件が史上初の大集結

 2018年現在、膨大な数が存在する縄文時代の出土品のなかで、国宝と認められているのはわずかに6件のみです。第4章「縄文美の最たるもの」では、この国宝6件が一堂に展示されます。縄文の国宝すべてが勢揃いするのは史上初めてのことです。

国宝《火焔型土器》新潟県十日町市 笹山遺跡出土 縄文時代(中期) 新潟・十日町市蔵(十日町市博物館保管) 写真:小川忠博
国宝《土偶 縄文のビーナス》長野県茅野市 棚畑遺跡出土 縄文時代(中期) 長野・茅野市蔵(茅野市尖石縄文考古館保管) ※展示期間:7月31日(火)~9月2日(日)
国宝《土偶 縄文の女神》山形県舟形町 西ノ前遺跡出土 縄文時代(中期) 山形県蔵(山形県立博物館保管)
国宝 《土偶 仮面の女神》長野県茅野市 中ッ原遺跡出土 縄文時代(後期) 長野・茅野市蔵(尖石縄文考古館保管) 展示期間:7月31日(火)~9月2日(日)
国宝《土偶 合掌土偶》青森県八戸市 風張1遺跡出土 縄文時代(後期) 青森・八戸市蔵(八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館保管)
国宝《土偶 中空土偶》北海道函館市 著保内野遺跡出土 縄文時代(後期) 北海道・函館市蔵 (函館市縄文文化交流センター保管) 写真:小川忠博

 国宝は、単に造形が優れているというだけではありません。縄文時代は文字が残されていないため、当時の暮らしや文化を復元するには発掘調査の際に、どのような遺跡からどのような状態で出土したかを詳細に記録する必要があります。これらを踏まえた上で、歴史資料としての側面も評価されたのがこの6件なのです。

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