上野周辺 日本美術

アートの視点で「縄文」を観る『特別展 縄文―1万年の美の鼓動』を東京国立博物館にて 感想や混雑状況、見どころを紹介

土偶や土器に込められた縄文人の祈りにふれる

 第5章「祈りの美、祈りの形」では、ひらけた展示室に数多くの土偶や土器が展示されています。土偶とは、粘土で作られた人形の土製品で、縄文時代の始まりとともに登場しました。安産や子孫繁栄、豊穣などを願った縄文人たちの、祈りのための道具であると考えられています。

 草創期の土偶は、顔面や四肢の表現が乏しい小さなものがほとんどですが、中期・後期になると多様な造形の土偶が作られるようになります。

重要文化材《遮光器土偶》青森県つがる市木造亀ヶ岡出土 縄文時代(後期) 東京国立博物館蔵

 約1万8000点以上出土している土偶のなかで、最も著名なのは教科書にも登場するこの《遮光器土偶》でしょう。極北民族が雪の照り返しを目から守るための「雪中遮光器」(スノーゴール)がその名前の由来となっています。

重要文化財《ハート形土偶》群馬県東吾妻町郷原出土 縄文時代(後期) 個人蔵

 《遮光器土偶》とならんで人気の高い《ハート形土偶》は、言うまでもなく顔がハート形をなすことから、その名がつけられました。現代では当たり前に使われるこのハート形が、数千年前の日本に存在していたというのはなんとも不思議な事実です。

 この章の中盤からは、「人を表現した土器」、「動物を表現した土器」、「親子を表現した土器」がそれぞれ展示されています。

重要文化財《人形装飾付有孔鍔付土器》山梨県南アルプス市 鋳物師屋遺跡出土 縄文時代(中期) 山梨・南アルプス市教育委員会蔵 

重要文化財《猪形土製品》青森県弘前市 十腰内2遺跡出土 縄文時代(後期) 青森・弘前市立博物館蔵

 日本列島で動物の飼育が始まり、動物の造形が登場するのは縄文時代のことで、豊穣や豊漁を願い作られました。なかには動物への畏怖や憧れから作られたものも存在します。

《子抱き土偶》東京都八王子市 宮田遺跡出土 縄文時代(中期) 千葉・国立歴史民俗博物館蔵

 大人と子供の関わりをうかがわせる土器や土偶は、現代よりも圧倒的に過酷な環境下において、より強く子供の成長や無事、繁栄を願って作られたのでしょう。

巨匠たちが愛した縄文

 本展最後のエリア、第6章「新たにつむがれる美」では、岡本太郎や柳宗悦などの芸術家や作家たちに愛された品々が展示されています。

 明治時代になって大森貝塚の発掘によって発見された縄文土器ですが、それは長い間あくまでも考古学の研究対象として捉えられてきました。そんななか、今では巨匠と呼ばれる芸術家や作家たちが、それまで認められてこなかった縄文の芸術的価値を見いだします。その結果、日本美術史の始まりは、飛鳥時代から縄文時代に引き上げられたのです。

 本展では、岡本太郎が昭和26年に東京国立博物館で出会い強い衝撃を受けた土器が展示されており、それらを写真撮影することができます。

《顔面把手》山梨県韮崎市穂坂町出土 縄文時代(中期) 東京国立博物館蔵
《深鉢形土器》東京都あきる野市草花字草花前出土 縄文時代(中期) 東京国立博物館蔵
《深鉢形土器》長野県伊那市宮ノ前出土 縄文時代(中期) 東京国立博物館蔵
《深鉢形土器》東京都あきる野市雨間塚場出土 縄文時代(中期) 東京国立博物館蔵

音声ガイドは杏さんが担当

 本展の音声ガイドナビゲーターは、女優・モデルとして活躍し、番組で縄文遺跡を取材した経験もある杏さんが担当。展示室内では多くの展示品に解説が掲載されていますが、音声ガイドではそこにはない、より詳しい情報を得ることができます。
貸出料金;¥520(税込)

“クセがつよい”グッズが盛りだくさん

 二つの展示室のあいだに設けられた物販スペースでは、本展のために用意されたさまざまなグッズが販売されています。ファイル類やポストカード、Tシャツ、ポーチ、手拭いなどの定番アイテムのほか、土偶マスコット・ぬいぐるみ、陶器でできたミニ土偶、ストラップ、クッションなど、クセのある商品が多数ラインナップされています。 

 図録はA4変形サイズで、細長いつくりになっています。全出品作品の紹介など総計304ページの大ボリューム。土器の展開写真や、土偶の背面写真など貴重な資料写真や、東京国立博物館の考古学研究員らによるコラムも収録されています。
【2018年発行、A4 変型(305mm×200mm)カラー・モノクロ、304ページ】

最後に

 正直なところ、それほど期待感もなく向かった本展ですが、帰るころにはすっかり縄文の美に魅了されていました。そもそも縄文土器の表現に、これほどバリエーションがあることすら知らなかったため、それを実際に見ながら学べただけでも大きな収穫といえます。

 そういったさまざまな発見のなかでも特に印象的だったのは、同時代のアジアやヨーロッパと比較して、縄文土器のみが異質ともいえるほどの装飾性に溢れていたという事実です。1万年以上も前に、実用性よりも装飾性を優先していたのです。これは、工芸品などを実用目的のみならず、芸術と捉える現代の日本人の感性にそのまま通じていると思います。縄文の土器や土偶は、まぎれもなく日本のものづくりの源流なのです。ぜひ多くの美術ファンにも観ていただきたいと思います。

 もちろんしっかりと時代背景なども解説されているので、歴史の勉強にも大いに役立ちます。そういった意味でも、大人から子供まで楽しめる素晴らしい展覧会でした。この夏、ご家族で行かれてみてはいかがでしょうか。7/24日(火)~9/9(日)の日程で、『親と子のギャラリー トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館』も開催中です。縄文展のチケットでこちらも楽しむことができますよ。


以上、東京国立博物館にて開催中、『特別展 縄文―1万年の美の鼓動』のレポートでした。

開催概要

特別展 縄文―1万年の美の鼓動
会期 2018年7月3日(火)~9月2日(日) 
休館日 月曜日(ただし7月16日(月・祝)、8月13日(月)は開館)、7月17日(火)
開館時間 9:30~17:00、金・土曜日のみ~21時、日曜および7月16日(月・祝)は18:00まで
※入館は閉館の30分前まで
会場 東京国立博物館 平成館
〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
観覧料 一般:1,600円(1,300円) 大学生:1,200円(900円) 高校生:900円(600円) 中学生以下無料

※( )内は20名以上の団体料金
※障がい者とその介護者1名は無料(入館の際に障がい者手帳などをご提示ください)
※東京・ミュージアム ぐるっとパス2018のご利用で、一般料金から100円引

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