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肖像芸術が担ってきた役割とその変遷を辿る『ルーヴル美術館展 肖像芸術 ―人は人をどう表現してきたか』を国立新美術館にて

彫刻作品も傑作ばかり

 本展にはいわゆる石像などの彫刻作品が数多く出品されており、全体の4割近くがそれにあたります。彫刻のみの部屋もあるほどで、特に前半に多く展示されていました。そのバリエーションは、史料というべき古代の石碑から芸術的な彫像までさまざまですが、どの作品も目を見張るほど質の高いまさに傑作揃いでした。個人的にはそれほど彫刻作品に対する関心がなかったのですが、本展全体をとおして印象に残っている作品を頭に思い浮かべると、彫刻作品の方が多いほどです。きっとみなさんも美しい彫刻作品の虜になることでしょう。

《ドガをまとったティヴェリウス帝の彫像》

《ドガをまとったティヴェリウス帝の彫像》イタリア、カブリで発見(身体のみ) 40年頃(頭部);50-60年(身体) 大理石 ルーヴル美術館蔵

フランチェスコ・マリア・スキアッフィーノ《リシュリュー公爵ルイ・フランソワ・アルマン・デュ・プレシ》

フランチェスコ・マリア・スキアッフィーノ《リシュリュー公爵ルイ・フランソワ・アルマン・デュ・プレシ》1748年 大理石 ルーヴル美術館蔵

 上の2点はまったく異なる時代の作品ですが、どちらにも共通した魅力はなんといっても身にまとった衣服の立体感ではないでしょうか。まるで本物の布かと見まごうほど、質感がリアルに表現されています。

フランツ・クサファー・メッサーシュミット 《性格表現の頭像》

フランツ・クサファー・メッサーシュミット 《性格表現の頭像》 1771-1783年の間 鉛と錫の合金 Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Pierre Philibert /distributed by AMF-DNPartcom

 こちらのメッサーシュミットによる作品も印象的でした。精神を病んだ作者が自分をモデルにしながら、さまざまな表情の頭部像を制作した「性格表現の頭像」のうちの1点です。力いっぱい目をつぶり、への字に曲げた口をテープでとめて痛みに耐えるような表情が非常にインパクトがあり、なんとも不思議な雰囲気を漂わせている作品です。

 妄想に悩まされたメッサーシュミットは、顔や身体の一部をつまんでしかめっ面をし、自身を苦しめる病を制御するいわば治療のために本作を制作しました。また一方で、顔立ちと性格の相関関係を考察した観相学の発展とも結び付けられています。

本展の最注目作品はナポレオンの彫像

 110点を超える名作の数々のなかで最も印象的だったのが、ナポレオンコーナーに入ると真っ先に目に飛び込んでくる、高さ2mを超す彫像作品《戴冠式の正装のナポレオン1世》です。本作はナポレオンがフランス皇帝に即位し、帝位への就任を宣明する儀式である戴冠式を行ったときの姿を表したもので、元老院の議事堂であるリュクサンブール宮殿の「皇帝の間」を飾るために制作されました。

クロード・ラメ《戴冠式の正装のナポレオン1世》

クロード・ラメ《戴冠式の正装のナポレオン1世》1813年 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

 繊細かつ力強い造形美が圧巻で、思わず息を飲んでしまいました。圧倒的な存在感を放ち、権力を誇示するという肖像の担う役割の一つをこの上なく達成した作品といえるのではないでしょうか。本展最大の見どころだと自信をもって宣言できる傑作です。マントの装飾、額や手の甲などに血管がリアルに彫られている点にも注目してみてください。

音声ガイドは俳優の高橋一生さんが担当

 本展の音声ガイドナビゲーターは、近年多くのテレビドラマや映画、舞台などで幅広く活躍する俳優の高橋一生さんが担当しています。鑑賞の妨げにならない、音声ガイド向きともいえる声・話し方が非常に好印象で、その落ち着いた声色が展覧会の厳かな雰囲気にピッタリだと思いました。

 内容は作家やモデルの詳しい解説から作品にまつわるエピソードまで、鑑賞に役立つ情報が盛りだくさんです。作品とゆかりのある楽曲によるBGMも素敵でした。

 音声ガイドだけのスペシャル・コンテンツとして、高橋さんがルーヴル美術館を訪れた際の感想や肖像の魅力、本展で一番印象に残った作品について語ったボーナストラックも聴くことができます。

【所要時間】 約35分(21点+ボーナストラック2点)
【当日貸出価格】 550円(税込)
【ガイド制作】(株)アコースティガイド・ジャパン

バリエーション豊富なグッズにも注目

ルーヴル美術館展物販

 展示室出口に設けられた物販スペースではさまざまな種類のグッズが販売されていました。まず目を引くのが写真右奥に見える壁一面にずらりと並べられたポストカードです。なんと全部で26種類もあります。別売りのミニフレームも用意されていますので、お部屋に飾ってインテリアとしても楽しむことができます。

 有名菓子店とのコラボ商品も見逃せません。鎌倉紅谷の「ルーヴルッ子」、とらやの「エッフェル塔の夕暮れ」などの和菓子、Cubetas [キュビタス] のチョコレートといった洋菓子をそれぞれラインナップ。そのほかクリアファイルや、Tシャツ、トートバッグといった定番アイテム、ミニアクリルスタンドのカプセルトイも用意されていました。

ルーヴル美術館展図録

 図録は出品全作品のカラー写真と解説、複数のコラムも収録された充実の内容です。さらに通常の日本語版に加え、フランス語版とのセットになった日仏バイリンガル版も販売されています。

日本語版 価格:2,500円(税込)ページ数:全248ページサイズ:A4変型(300×225mm)
日仏バイリンガル版 価格:3,700円(税込)仕様:日本語版と仏語版のセット/スリーブケース付きページ数:316ページ(日本語版248ページ/仏語版68ページ)サイズ:A4変型(300×225mm)

最後に

 これまで肖像については、「人の存在を記憶する」ものだとは認識していたものの、それ以外の役割や意味について深く考えたことはありませんでした。あまりにも身近で、ありふれたジャンルだったからでしょう。言ってしまえば肖像というものの概念は、「人の外観が表現されている」ただそれだけなのです。しかし、その絵にはその時代ならではの役割や求められる意味が存在し、さらにはモデルや作者、注文主などさまざまな人間の想いが詰まっています。そんな当たり前で、なのに気づくことができなかった肖像芸術の奥深い魅力を教えてくれる素晴らしい展覧会でした。本展を見終えたあと、きっとみなさんも肖像に対する理解そして関心が大いに深まっていることでしょう。

以上、国立新美術館にて開催中、『ルーヴル美術館展 肖像芸術 ―人は人をどう表現してきたか』のレポートでした。

開催概要

ルーヴル美術館展 肖像芸術 ―人は人をどう表現してきたか
会期 2018年5月30日(水)~9月3日(月) 
休館日 火曜日 ※ただし8/14(火)は開館
開館時間 10:00~18:00、※金・土曜日は、6月は20:00まで、7・8・9月は21:00まで ※入館は閉館の30分前まで
会場 国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
観覧料 一般:1,600円(1,400円) 大学生:1,200円(1,000円) 高校生:800円(600円) 中学生以下:無料

※( )内は前売および20名以上の団体料金
※障害者手帳をご持参の方(付き添いの方1名を含む)は無料(要証明)
※7月14日(土)―29日(日)は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要)

巡回展:大阪

大阪市立美術館
2018年9月22日(土)~2019年1月14日(月・祝)

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