上野周辺 日本美術

新春限定展示が盛りだくさんの東京国立博物館『博物館に初もうで』

東京国立博物館2019年1月2日

 1月2日、上野の美術館・博物館は一斉に新年最初の開館日を迎えました。開催中の展覧会はどれも魅力的なものですが、なかでも東京国立博物館ではお正月気分を満喫できるさまざまなイベントが催されるほか、この時期しかみられない貴重な作品が多数展示されます。そんな多くの人でにぎわう新春のトーハクをたくさんの写真とともに紹介します。

新春恒例『博物館に初もうで』 

 あらためまして、新年明けましておめでとうございます。みなさんはもう今年の美術館・博物館初めは済まされたでしょうか。なかには年末年始も無休で開館していた美術館もありますが、多くは早くて1月2日が新年のスタートです。その例に漏れず2日に新年最初の開館日を迎えた東京国立博物館では、今年で16年目となる新春恒例の『博物館に初もうで』が開催されています。年始はトーハクでと決めていた筆者もこの日に行ってきました。

東京国立博物館2019年1月2日

 到着するとチケット売り場からすでに列ができるほどの大盛況で、そのうちの半数近くが外国人なのではないかと思うくらい海外の方が多くいらっしゃっています。とはいえ館内はとても広々としていますから、中に入ってしまえばそれほど混雑している感じはしません。上野で開催中の展覧会など、たとえば『ムンク展』などは入場待ちが数十分だったようですから、なかなかじっくりと鑑賞することはできないでしょう。その点ゆったり作品をみて回れる博物館はおすすめですよ。

 この『博物館に初もうで』は特別展ではないので、一般620円、大学生410円、高校生以下および満18歳未満、満70歳以上の方は無料で観覧できます。お得ですね。展示品の数がとにかく多いので、丸一日かけて楽しむことができるのも魅力的です。1月27日までの期間中にしかみることができない貴重な作品もたくさん展示されますので、取りこぼしがないようこの記事で確認してから向かっていただければと思います。

獅子舞に和太鼓からバーゲンセールまで、2日間限定のお正月イベント

 1月2日、3日には正月ならではのさまざまなイベントが開催され、「初もうで」にやってきた人々を楽しませてくれます。本館の特設ステージでは、獅子舞と和太鼓の演奏が行われ、大勢の人が集まって写真を撮っていました。翌3日にはクラリネット・コンサートも行われたようです。

正月の東京国立博物館での獅子舞

正月の東京国立博物館での和太鼓

 さらにこの2日間は、ミュージアムシアターにてVR作品を鑑賞するとシアター無料鑑賞券2枚とオリジナルグッズがもらえたり、ミュージアムショップでは2000円以上購入した先着600名にミュージアムグッズがお年玉としてプレゼントされたほか、美術図書バーゲンセールも開催されました。毎年このセールを狙っている方もいるのだとか。

東京国立博物館ミュージアムショップの新春パーゲン

 大混雑のミュージアムショップ内を獅子舞御一行が練り歩く場面もありました。外国の方などはとても興味深そうに見ていましたが、日本人にとっても非日常的なことなのでなんだかわくわくしてきます。

獅子舞が練り歩く正月の東京国立博物館ミュージアムショップ店内

 もうひとつ2日間限定のものとして、カレンダー付きワークシートが先着3000名に配布されました。 特集展示「博物館に初もうで イノシシ 勢いのある年に」を楽しむためのワークシートで、その裏には2019年カレンダーが付いています。人気のため予定時間を大幅に前倒して配布終了となっていました。

東京国立博物館2019年正月ワークシート

東京国立博物館2019年正月カレンダー

 本館の大階段を上がる途中の踊り場には、池坊 蔵重伸氏、中野幽山氏による「いけばな」が展示されています。とても力強く、迫力がある作品でした。こちらは1月14日まで展示されています。

東京国立博物館にて2019年正月に展示された池坊のいけばな

トーハクの正月といえばコレ 長谷川等伯筆 国宝《松林図屏風》

 墨の濃淡だけで霧に包まれた松林を描いた長谷川等伯による傑作、国宝《松林図屏風》。お正月の定番となった本作はこの時期にしか展示されないため、この作品をみるために毎年訪れるいう方もいらっしゃるそうです。昨年は『名作誕生ーつながる日本美術』で展示されましたが、常設展のなかでみられるのは2年ぶり。展示された本館2階の国宝室(2室)に向かうと、一際多くの人でにぎわっており、写真を撮るのは難しい状況でした。1月14日まで展示されていますので、もう少しすいている日もあるかもしれません。静かに味わうことができないのは少し残念ですが、絶対に見逃せない作品です。

東京国立博物館蔵国宝《松林図屏風》展示風景

長谷川等伯筆《松林図屏風》

長谷川等伯筆 国宝《松林図屛風》安土桃山時代・16世紀 紙本墨画

 本館1階ではこの《松林図屏風》の高精細複製品と映像や照明によるインスタレーションの展示もありました。畳が用意されており、そこに座ってゆっくりと作品の世界に浸ることができます。松林の香りもしたような気がするのですが、気のせいでしょうか。いずれにせよ、薄暗い空間で幻想的に映像が投影された松林図屏風を眺めているととても心が落ち着きます。

《松林図屏風》インスタレーションの様子

《松林図屏風》インスタレーション

今年の干支「亥(イノシシ)」を集めた特集「博物館に初もうで イノシシ 勢いのある年に」

イノシシ 勢いのある年に

 本館2階の特別1室・特別2室では、今年の干支にちなんで古代から近代の「イノシシ」をモチーフにした作品が展示されています。豊穣を象徴し、日本では古くは霊獣ともされてきたイノシシ。信奉の対象にもなってきたことから、イノシシが登場する作品は数多く残されています。「猪突猛進」の言葉のとおり、勢いのある今年一年を送れるよう作品からパワーをもらいましょう。この企画は1月27日まで開催されています。第1会場とその反対側に第2会場がありますので、どちらもお見逃しのないようご注意ください。

石川光明《野猪》

石川光明《野猪》大正元年(1912) 木造 石川光明氏寄贈

岸連山《猪図》

岸連山《猪図》江戸時代・19世紀 紙本着色 ハーディ・ウィルソン氏寄贈

望月玉泉《萩野猪図屏風》

望月玉泉《萩野猪図屏風》江戸~明治時代・19世紀 紙本着色

結城正明《富士の巻狩》

結城正明《富士の巻狩》明治30年(1897) 絹本著色金泥引 個人蔵

歌川豊国《浮浮繪忠臣蔵・五段目之圖》

歌川豊国《浮浮繪忠臣蔵・五段目之圖》江戸時代・18世紀 横大判 錦絵

新春ならではの名品が多数展示

 本館には1階2階あわせてたくさんの作品がならんでいますが、そのなかに新春らしいモチーフの作品が多数展示されています。目印は作品情報・解説の横にあるマークですので、探してみてください。展示期間は作品によって違いますが、短いものだと1月14日までですのでお見逃しなく。

新春マークが目印

新春マークが目印

国宝《片輪車蒔絵螺鈿手箱》

国宝《片輪車蒔絵螺鈿手箱》平安時代・12世紀 展示期間:1月2日(水)~3月31日(日)

重要文化財の仁清《色絵月梅図茶壺》

重要文化財 仁清《色絵月梅図茶壺》江戸時代・17世紀 展示期間:1月2日(水)~3月17日(日)

葛飾北斎《富嶽三十六景・凱風快晴》

葛飾北斎筆《富嶽三十六景・凱風快晴》江戸時代・19世紀 横大判 錦絵 展示期間:1月2日(水)~1月27日(日)

正月らしい浮世絵もずらり

 本館2階10室では、『浮世絵と衣装―江戸(浮世絵)』と題して、初日の出などの正月らしいテーマが描かれた浮世絵が展示されています。こうしてみると、江戸の人々がいかに正月を大切にしていたかよくわかりますね。展示期間は1月2日~1月27日となっています。

歌川国貞《二見浦曙の圖》

歌川国貞(三代豊国)筆《二見浦曙の圖》江戸時代・19世紀 横大判 錦絵

鈴木春信《新年ひきぞめ》

鈴木春信筆《新年ひきぞめ》江戸時代・宝暦11年(1761) 横大判 紅摺絵

歌川広重《江戸名所・芝浦日の出》

歌川広重筆《江戸名所・芝浦日の出》江戸時代・嘉永5年(1852) 中短冊判 錦絵

そのほか素晴らしい常設展示も必見

 東京国立博物館の所蔵作品は大変貴重な名品ばかりです。それらを展示する総合文化展(常設展)は、展示室ごとに一定期間で作品の展示替えが行われています。そのためいつ何度行っても新たな作品と出会えるのが素晴らしいところ。正月とは関係ないものの、1月2日から展示が始まった作品もたくさんありますし、逆にもうすぐ終了してしまうものもありますので見逃しがないように注意してくださいね。総合文化展は一部を除き写真撮影が可能なのも嬉しいです。(展示終了が近い作品のみ期間を掲載しています)

重要文化財の《愛染明王坐像》

重要文化財《愛染明王坐像》鎌倉時代・13世紀 木造,彩色・金泥塗り・漆箔・切金,玉眼 展示期間:~2019年1月20日

重要文化財の《愛染明王坐像》を左側から撮影

重要文化財の《愛染明王坐像》を右側から撮影

東京国立博物館所蔵の《阿弥陀如来立像》二体

左:重要文化財 永仙作《阿弥陀如来立像》鎌倉時代・正嘉3年(1259) 木造,金泥塗り・截金,玉眼 安田善次郎氏寄贈
右:《阿弥陀如来立像》鎌倉時代・13世紀 木造,金泥塗り・截金,玉眼 展示期間:どちらも ~2019年1月20日

浄瑠璃寺蔵の《広目天(四天王立像のうち)》

国宝《広目天(四天王立像のうち)》平安時代・12世紀 木造,彩色 截金 京都・浄瑠璃寺蔵 展示期間:~2019年1月20日

円山応挙《龍唫起雲図》

円山応挙《龍唫起雲図》江戸時代・寛政6年(1794) 紙本墨画 植松嘉代子氏寄贈

小林古径《異端(踏絵)》

小林古径《異端(踏絵)》大正3年(1914) 絹本着色 展示期間:~2019年1月20日

横山大観《日蓮上人》

横山大観《日蓮上人》明治43年(1910) 絹本着色 展示期間:~2019年1月20日

重要文化財の浅井忠《春畝》

重要文化財 浅井忠《春畝》明治21年(1888) カンバス・油彩

精磁会社《色絵花鳥文大皿》

精磁会社《色絵花鳥文大皿》明治26年(1893) シカゴ・コロンブス世界博覧会事務局

※特に記載のないものはすべて東京国立博物館蔵

黒田記念館の特別室も1月14日まで公開中

黒田記念館外観

黒田記念館外観

 博物館の敷地外にあるため忘れられがちな黒田記念館。近代日本の美術に大きな影響を与えた洋画家、黒田清輝の遺産と作品が国に寄贈されたことが契機となって建てられた施設です。館内には黒田記念室が設けられ、遺族の方々から寄贈された遺作の油彩画、素描等が展示されています。

 普段は黒田記念室のみ公開されていますが、1月14日までのあいだは黒田清輝の代表作である《読書》、《舞妓》、《智・感・情》、《湖畔》が展示された特別室も公開されています。新年、春、秋の年3回、各2週間のみ公開されているため、貴重な機会です。

黒田記念館の特別室の様子、奥には重要文化財 黒田清輝《智・感・情》

黒田記念館特別室 奥の作品は、重要文化財 黒田清輝《智・感・情》明治32年(1899) カンバス・油彩 東京国立博物館蔵

黒田清輝《読書》

黒田清輝《読書》明治24年(1891) カンバス・油彩 東京国立博物館蔵

重要文化財 黒田清輝《舞子》

重要文化財 黒田清輝《舞子》明治26年(1893) カンバス・油彩 東京国立博物館蔵

重要文化財 黒田清輝《湖畔》

重要文化財 黒田清輝《湖畔》明治30年(1897) カンバス・油彩 東京国立文化財研究所蔵

 通年公開されている黒田記念室ですが、こちらも展示替えのため今展示されている作品は1月20日までしかみられませんので、お見逃しなく。黒田がフランス留学中に描いた《マンドリンを持てる女》は必見です。

黒田記念室入口、左手前には高村光太郎作《故子爵黒田清輝胸像》

黒田記念室 左手前の胸像は、高村光太郎作《故子爵黒田清輝胸像》昭和7年(1932) ブロンズ

黒田清輝《マンドリンを持てる女》

黒田清輝《マンドリンを持てる女》明治24年(1891) カンバス・油彩 東京国立博物館蔵 展示期間:~2019年1月20日

黒田清輝《祈祷》

黒田清輝《祈祷》1889年 油彩・カンヴァス 東京国立文化財研究所蔵

 黒田記念館は位置的にいうと東京国立博物館の隣にありますが、博物館敷地外ですので外に出なくてはなりません。博物館の前の歩道を、博物館に向かって左、博物館から出てきた場合は右に曲がります。

黒田清輝記念館アクセス1

 博物館に沿って200mほど直進すると「上島珈琲店」が見えますので、信号を渡って右に曲がります。10mほど進んだら入口です。ちなみに黒田記念館は常に無料で公開されていますので、博物館のチケットを購入する必要はありません。黒田記念館のみ行くことももちろんできます。開館時間、休館日は東京国立博物館と同じです。

黒田清輝記念館アクセス2

最後に

東京国立博物館2019年1月2日の様子

 当初は別の美術館に展覧会をみに行こうかとも考えていましたが、結果的に東京国立博物館を選んでよかったと思っています。やはりお正月は日本美術に限るとも思いますし、ここまでお正月を演出している美術館・博物館はそうそうないでしょう。普段は特別展のついでのようなかたちで総合文化展をみて回るのですが、こうやって常設展示だけに集中すると隅から隅までじっくりとみられますし、これまで見落としていた魅力に気づくことができます。大混雑もありませんし、一日中いても見切れないほどのボリューム、国宝や重要文化財も多数の質の高さ、観覧料もお手頃と、自分にとってのお正月の定番となりそうです。企画としての『博物館に初もうで』は27日までですが、作品によってはそれ以前に展示終了となるものもありますので、気になる方は早めに行きましょう。

以上、新年初日の東京国立博物館の模様でした。

開催概要

博物館に初もうで
会期 2019年1月2日(火)~1月27日(日)
休館日 月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)
開館時間 9:30~17:00、金・土曜日のみ~21時 ※入館は閉館の30分前まで
会場 東京国立博物館

観覧料

  通常 団体
一般 620円 520円
大学生 410円 310円
高校生以下および満18歳未満,満70歳以上の方 無料

※団体は20名以上
※高校生以下および満18歳未満,満70歳以上の方は入館の際に年齢のわかるもの(生徒手帳,健康保険証,運転免許証など)をご提示ください。
※障がい者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料(要証明)

子どもといっしょ割引
子ども(高校生以下および満18歳未満)と一緒に来館した方(子ども1名につき同伴者2名まで)は、団体料金で総合文化展を観覧できます。

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