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『神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展』のレポート、感想、見どころを紹介します。

ルドルフ2世の驚異の世界展

 東京、渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中『ルドルフ2世の驚異の世界展』の概要と知識解説、そしてレポートと見どころを紹介します。

神聖ローマ帝国皇帝であり、稀代の収集家 ルドルフ2世の驚異の世界

 渋谷駅から徒歩10分弱の場所にある、 Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催中の本展は、2017年11月3日から福岡の福岡市博物館を皮切りに、東京そして3月21日から滋賀の佐川美術館と3会場を巡回する大規模展覧会です。

 プラハに宮廷を構え、神聖ローマ帝国皇帝として君臨したルドルフ2世は、稀代の収集家としても知られています。16世紀末から17世紀初頭、彼の宮廷には世界各地から優れた芸術家たちが集められました。さらに、天文学・占星術や錬金術にも強い関心を示したルドルフ2世は、科学機器などのあらゆる優れた創作物や新たに発見された自然物なども次々と収集し、まさに「驚異の部屋」といった膨大なコレクションが形成され、プラハはヨーロッパの芸術文化の一大拠点となりました。

 本展では、ルドルフ2世が愛好した芸術家たちの絵画作品はもちろんのこと、天体観測機器のほか、天文学や錬金術に関する貴重な資料も多数展示されています。

比較的穏やかな混雑状況

 私が行ったのは平日の15時頃でしたが、そこまで混雑はしておらず快適に鑑賞することができました。遅めの時間帯に行ったのがよかったのかもしれません。金・土曜日は21時まで開館していますので、これらの夕方以降でしたらより空いていると思われます。

出品点数は120点以上

 本展では、絵画のみならず天体道具や工芸品など合わせて120点余りが展示されており、実際にルドルフ2世が所有していたとされるものも多く含まれています。120点と聞くとかなり多い気がしますが、実際にはそれほどボリュームがあるようには感じませんでした。あまりに出品点数が多いと観ていて少し疲れてしまいますが、そうはならないちょうどいい内容だったと思います。もちろん不足感もなくとても満足度の高い展覧会でした。

展示されているすべてがルドルフ2世の所有していた作品ではない

 質・量ともにヨーロッパ随一と評されたルドルフ2世のコレクションですが、彼の死後に神聖ローマ帝国を舞台として1618年から1648年に渡って争われた最大の宗教戦争である三十年戦争によってその多くが失われてしまいます。完全に失われたものや散り散りとなって所在がわからなくなったものも多く、残ったものでも生前ルドルフ2世が所有していたと断言できない品々が多数存在しています。

 そんななか本展では、ルドルフ2世の旧蔵品と思われる作品にはマークを付けて展示しています。そのRマークには3種類があり、それぞれ
 ・ルドルフ2世旧蔵と考えられている作品 (ルドルフ2世の旧蔵品とみて間違いないと思われる作品)
・ルドルフ2世旧蔵の可能性のある作品(断言はできないがその可能性がある作品)
・オリジナルがルドルフ2世旧蔵と考えられている作品(当時コピーされた作品で、そのオリジナルがルドルフ2世の旧蔵品だと思われる作品)
といったようになっています。

 正直そこまで数は多くないので、鑑賞の際には見逃さないように探してみてください。なかには2種類のマークが付いている作品も1点ありました。これは、出品作はコピー作品ですが、このコピー作品自体がルドルフ2世旧蔵品の可能性があり、それのオリジナルもルドルフ2世旧蔵と考えられるということになります。

音声ガイドは俳優の安田顕さんが担当

俳優の安田 顕さんが、音声ガイド・ナビゲーターに決定いたしました!
絵画から工芸品、動物や植物までルドルフ2世が集めた幅広い品々にまつわるエピソード、当時のトリビアを織り交ぜてご案内します。皇帝が愛したプライベートミュージアムとは? 安田さんの音声ガイドとともにお楽しみください。
BGMにはルドルフ2世の宮廷で活躍したデ・モンテなど、当時の音楽をたっぷり堪能いただけ、天文学者ガリレオ・ガリレイの弟による曲もお楽しみいただけます。
【所要時間】 約35分 【当日貸出価格】 550円(税込)
公式HPより

図録の表紙は2種類

 図録は出品全作品の画像と、それらほぼすべてに詳しい解説が付いています。加えて複数のコラムも掲載されており、非常に充実した内容。さらに表紙が2種類用意されていて、ルドルフ2世が描かれた風景画か、ヤン・ブリューゲル(父)による花束から選べます。価格は2400円です。

神聖ローマ帝国皇帝・ルドルフ2世とは

ハンス・フォン・アーヘン作のコピー《ハプスブルク家、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の肖像》

ハンス・フォン・アーヘン作のコピー《ハプスブルク家、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の肖像1600年頃 油彩・キャンヴァス スコークロステル城 スウェーデン Skokloster Castle, Sweden

 ルドルフ2世は、1552年に名門ハプスブルク家のマクシミリアン2世と皇后マリアの間に生まれました。現在のスイス付近を発祥とするハプスブルク家は、政略結婚を繰り返し、広大な領土の獲得によって大貴族に成長したことで、中世から20世紀初頭まで中部ヨーロッパで強大な勢力を誇りました。のちにほぼドイツ全域を統べることになる神聖ローマ帝国の皇帝位を保持したことから、形式的には全ドイツ人の君主であったヨーロッパ随一の名門王家です。

 ルドルフ2世は1576年に父マクシミリアン2世の後を受けて神聖ローマ帝国皇帝の座に即位しますが、もともと政治能力に欠けていたこともあり、国政は重臣に任せきりでした。しかし教養に富む優れた文化人であったルドルフ2世は、芸術に多大なる関心を寄せました。1583年に首都をウィーンからプラハに移し、世界各地から優れた画家を宮廷に呼び寄せ多くの作品を制作させたほか、最高水準の芸術作品や自然物も広範囲に収集し、壮大なコレクションを築き上げた結果、プラハを大いなる文化的繁栄に導きました。

 ルドルフ2世は天文学や占星術にも強い関心を抱き、天文学者のティコ・ブラーエやヨハネス・ケプラー、植物学者のシャルル・ド・レクリューズなども彼のもとに出入りしていました。さらに錬金術にも傾倒し、多くの錬金術師のパトロンにもなりました。

 生涯一度も結婚しなかったルドルフ2世は1612年に60歳で死去し、帝位は弟のマティアスが継ぎました。

ルドルフ2世とアルチンボルド

ジュゼッペ・アルチンボルド 《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》

ジュゼッペ・アルチンボルド 《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》 1591年、油彩・板、スコークロステル城、スウェーデン Skokloster Castle, Sweden

 ルドルフ2世のもとには世界中から優秀な画家が数多く集められましたが、そのなかで最も寵愛された画家の一人がジュゼッペ・アルチンボルドです。静物画のように緻密に描かれた果物、野菜、動植物、本などを組み合わせた珍奇な肖像画の数々で知られる宮廷画家です。

 メインビジュアルにもなっている本作は、晩年にイタリアに帰郷してから制作し皇帝に贈った作品で、果実と季節の移ろいを司るローマ神、ウェルトゥムヌスとして皇帝を描いた肖像画です。ルドルフ2世を様々な果物や野菜、植物を組み合わせ、四季を掌握する力を持つ神として描いたアルチンボルドの代表作であり、ルドルフ2世はこの風変わりな肖像画を大変気に入り、アルチンボルドに高い地位を与えました。

 アルチンボルドはその斬新な表現方法から多くの画家に衝撃と影響を与えました。本展にもアルチンボルドの作風を真似た作品が展示されていますが、いざ比べて観てみると力の差は歴然といった感じで、いかにアルチンボルドが高い表現力・技術力を有していたのかがよくわかります。

作者不明(ジュゼッペ・アルチンボルドの追随者)《春の寓意》

作者不明(ジュゼッペ・アルチンボルドの追随者)《春の寓意》

作者不明(ジュゼッペ・アルチンボルドの追随者)《夏の寓意》

作者不明(ジュゼッペ・アルチンボルドの追随者)《夏の寓意》

作者不明(ジュゼッペ・アルチンボルドの追随者)《秋の寓意》

作者不明(ジュゼッペ・アルチンボルドの追随者)《秋の寓意》

作者不明(ジュゼッペ・アルチンボルドの追随者)《冬の寓意》

作者不明(ジュゼッペ・アルチンボルドの追随者)《冬の寓意》

アルチンボルドとならぶルドルフ2世のお気に入り
ルーラント・サーフェリー

ルーラント・サーフェリー《動物に音楽を奏でるオルフェウス》

ルーラント・サーフェリー《動物に音楽を奏でるオルフェウス》1625年 油彩・キャンヴァス プラハ国立美術館 チェコ共和国 The National Gallery in Prague

 ルドルフ2世は、世界中から当時としては珍しい動物たちを集めた動物園も所有していました。さらには馬の愛好家としても知られていたそう。そんな動物たちの絵を、アルチンボルドとならんでお気に入りだったお抱え画家の一人、ルーラント・サーフェリーに描かせました。サーフェリーはプラハからネーデルラントへ帰郷したのち、様々な動物たちが画面いっぱいに集う独自の形式を発展させた作品を数多く残しました。

   本展にはサーフェリーの作品がかなりの点数展示されています。これだけまとまってサーフェリー作品が観られるのは貴重なことですので、ぜひ注目してみてください。

ルーラント・サーフェリー《2 頭の馬と馬丁たち》

ルーラント・サーフェリー 《2 頭の馬と馬丁たち》 1628年頃、油彩・板、コルトレイク市美術館、ベルギー Loaned from the City Museums, Kortrijk(Belgium)

ルーラント・サーフェリー《花束》

ルーラント・サーフェリー《花束》 1611-12年頃、油彩・板、リール美術館、フランス Photo ©RMN-Jacques Quecq d’Henripret

 サーフェリーは動物画だけでなく、花の静物画も得意としていました。上の絵は一見普通に花を描いた静物画ですが、虫も描き込まれており、ヴァニタス(虚無の寓意)をテーマにしていることが分かります。

 また、ルドルフ2世が敬愛したピーテル・ブリューゲルの次男であり、「花のブリューゲル」と呼ばれたヤン・ブリューゲル(父)もプラハを訪れています。

ヤン・ブリューゲル(父) 《陶製の花瓶に生けられた小さな花束》

ヤン・ブリューゲル(父) 《陶製の花瓶に生けられた小さな花束》 1607年頃、油彩・板、ウィーン美術史美術館 ©KHM-Museumsverband

ほかにも名画が多数出品

  ルドルフ2世は、アルチンボルドやサーフェリー以外にも複数の画家を抱え多くの作品を描かせました。本展ではそのなかでも代表的な画家の作品が多数展示されています。

ヨーリス・フーフナーヘル《人生の短さの寓意(花と昆虫のいる二連画)》(部分)

ヨーリス・フーフナーヘル《人生の短さの寓意(花と昆虫のいる二連画)》(部分) 1591年 グアッシュ 水彩・ヴェラム リール美術館 Photo©RMN-cliché Stéphane Maréchalle

日本初公開となるこちらの水彩画は、自然の博物を主題とした細密画を得意とするヨーリス・フーフナーヘルによる二連画の一枚。フーフナーヘルは、蔵書家でもあったルドルフ2世の求めに応じて繊細で華麗な細密画や装飾を写本に施しました。

ーテル・ステーフェンス2世 《聖アントニウスの誘惑》

ペーテル・ステーフェンス2世 《聖アントニウスの誘惑》 1595-1605年 油彩・板 グレナ財団蔵

 フランドル出身で1594年からルドルフ2世の宮廷画家として皇帝の死まで仕えたベーテル・ステーフェンス2世の作品。ヒエロニムス・ボスやピーテル・ブリューゲルからの影響を感じさせる独特な作風で、奇妙な生物が所狭しと描かれています。派手さはないですがとても印象的で興味深い作品です。

絵画だけではないルドルフ2世の“驚異の部屋”

 ルドルフ2世は、絵画以外の様々な芸術作品や科学機器、自然物なども収集しました。それらは宮廷内の通称「驚異の部屋」と呼ばれるコレクションルームに展示されていました。本展ではその驚異の部屋も再現されています。

エラスムス・ビーアンブルナー《象の形をしたからくり時計》

エラスムス・ビーアンブルナー《象の形をしたからくり時計》1580年頃 エスターハージー財団、フォルヒテンシュタイン城宝物殿蔵

作者不詳《貝の杯》

作者不詳《貝の杯》 1577年 スコークロステル城蔵

写真撮影OKの特別展示

 展覧会の最後には、特別展示として映画監督、現代美術家のフィリップ・ハース氏によるアルチンボルドの模型が展示されています。ただでさえ立体感のあるアルチンボルドの作品を本当に立体の模型にしてしまうというアイディアが面白いですね。この特別展示のみはすべて撮影可能です。

フィリップ・ハースの作品

フィリップ・ハースの作品

フィリップ・ハースの作品

フィリップ・ハースの作品

フィリップ・ハースの作品

フィリップ・ハースの作品

最後に

 当時ルドルフ2世による功績によってヨーロッパ芸術文化の一大拠点となったプラハですが、本展ではその一端を感じることができます。さらには、芸術のみならず科学や錬金術にまで強い関心を抱いたルドルフ2世の“驚異の世界”が凝縮された、非常に刺激的で楽しい展覧会でした。普段それほど絵画鑑賞をされないという方にもおすすめです。

以上『神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展』のレポートと見どころ紹介そして知識解説でした。

開催概要

会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
開催期間:2018/1/6(土)-3/11(日) ※1/16(火)、2/13(火)のみ休館
開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで) 毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)

入館料

当日(前売り・団体):一般 1,600円(1,400円) 大学・高校生 1,000円(800円) 中学・小学生 700円(500円)


巡回情報

■福岡市博物館(福岡) 2017年11月3日(金・祝)~12月24日(日)
■佐川美術館(滋賀) 2018年3月21日(水・祝)~5月27日(日)

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