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【全作家を紹介】『絵画のゆくえ2019 FACE受賞作家展』を損保ジャパン日本興亜美術館にて

 新宿の東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館では、FACE受賞作家のその後の活動を紹介する『絵画のゆくえ2019 FACE受賞作家展』が開催中です。これからの時代を担うアーティストの意欲的な作品が集まった美術ファン必見の本展を紹介します。

FACE受賞作家たち11名の近作・新作約100点を展示

 2013年から毎年開催され、新進作家の登竜門となっている公募コンクール『FACE』。毎回数多くの作品が集まることで知られ、昨年は970名もの作家からの応募がありました。応募作品は油彩、アクリル、水彩、岩絵具、版画、蒔絵、織物、ミクストメディアなど技法やモチーフも多岐にわたります。美術評論家による厳正な審査によって入選作品が決定し、さらにそのなかから各賞が授賞されます。

 本展は、FACE2016からFACE2018までの3年間の「グランプリ」および「優秀賞」受賞作家11名の近作・新作約100点を展示し、FACE受賞作家たちの受賞後の展開を紹介するものです。毎年グランプリを受賞した作品は損保ジャパン日本興亜美術館の所蔵品となりますが、本展にはそのグランプリ受賞作品3点も展示されます。 

絵画のゆくえ2019会場入口

 作家ひとりにつき6〜11点出品されており、合計は101点となかなかボリュームがあります。とはいえ会場は空いていますので3~40分あれば観て回れると思いますが、むしろ空いているからこそ一点一点じっくり鑑賞することをおすすめします。

 ちなみに、本展は展示室内での作品撮影が可能となっています。(収蔵品コーナーは撮影不可)このあと紹介する作品写真はすべて私自身が撮影したものですが、照明の当たり方などによって作品がもつ色彩を正確には伝えきれていませんことをご了承ください。独特な質感をもった作品が多いので、この記事を読んで少しでも気になったらぜひ会場に足を運んでいただき、直接ご自身の目でその美しさを堪能していただければと思います。

出展作家11人とその作品を紹介

遠藤美香

遠藤美香《宙返り》

遠藤美香《宙返り》2017年 木版(墨・和紙) 作家蔵

 FACE2016でグランプリを受賞した若手版画家・遠藤美香さんは、墨と和紙による木版画を制作し続けています。版画というとリトグラフやエッチングといった選択肢もありますが、あえて木版画を、しかも多色刷りではなく墨一色を用いている点が特徴的です。版画としては比較的大きな作品が多く、なかでも会場に入るとまず目に飛び込んでくる《宙返り》は幅5m近い大作です。しかし、これだけ大きな作品でありながら“迫力”ではなく“繊細さ”を感じさせるのは、墨一色摺の木版画によるところなのでしょう。濃淡によって見事に表現された奥行き、そこに配置された人物などのモチーフの構図も素晴らしいです。写真では伝わらない作品の質感をぜひ直接味わってください。

遠藤美香《賜物》

遠藤美香《賜物》2018年 木版(墨・和紙) 作家蔵

唐仁原希

唐仁原希《それでもボクは。》

唐仁原希《それでもボクは。》2014年 油彩・キャンバス 作家蔵

 FACE2016で優秀賞を受賞した唐仁原希(とうじんばら のぞみ)さんは、京都市を拠点に活動するアーティストです。人の内面世界を表現したような、寓意的で妖しげ作品が特徴で、絵画のほかにもダークな立体作品も制作しており、本展にも出品されています。大きな瞳をもっていたり、半人半獣といった人物が登場したりと少し怖い雰囲気ですが、クラシックな絵画がもつ荘厳さを感じさせる作品の数々は実に魅力的です。

 なかでも驚かされたのが、幅5m超の大作《ママの声が聞こえる》です。大きな木が描かれているように見えますが、実は無数の“顔”が細かく描きこまれているのです。思わず背筋も凍る、強烈な世界観は必見です。

唐仁原希《ママの声が聞こえる》

唐仁原希《ママの声が聞こえる》2017年 油彩・キャンバス・パネル 作家蔵

唐仁原希《ママの声が聞こえる》(部分)

唐仁原希《ママの声が聞こえる》(部分)

松田麗香

松田麗香《そのにある それもまた 84》

松田麗香《そこにある それもまた 84》2015年 顔料・雲肌麻紙・パネル 作家蔵

  一見すると直線のみで構成されているようですが、近づいてみるとそれがすべて“円”の羅列によるものだとわかります。FACE2016で優秀賞を受賞した松田麗香さんは、この無数の円によって描かれる《そこにある それもまた》という作品を2007年からシリーズとして制作し続けています。色の組み合わせや円の大きさ、ときに小さな円の集合体によって大きな円を表現するなど作品のバリエーションは豊富ですが、徹底して円のみを用いて描いているのです。表現方法自体はシンプルですが、コントロールされた画面には奥行きがあり、しばらく眺めていると画面に吸い込まれていくような錯覚すら感じさせます。個性的な作品が集まった本展においても異色といえる作品群は、じっくりと時間をかけての鑑賞がおすすめです。

松田麗香《そこにある それもまた 105》

松田麗香《そこにある それもまた 105》2018年 顔料・雲肌麻紙・パネル 作家蔵

青木恵美子

青木恵美子《INFINITY Blue No8》《INFINITY Red》

青木恵美子《INFINITY Blue No8》2018年 アクリル・キャンバス 作家蔵《INFINITY Red》2016年 アクリル・キャンバス 損保ジャパン日本興亜美術館蔵

 FACE2017でグランプリを受賞した青木恵美子さんの作品《INFINITY Red》(上写真右)は、アクリル絵の具を筆跡で固めたものを、画面に貼り付けるという手法で制作されています。写真では伝わらないかもしれませんが、実物はとても立体感があって無数の花びらにも見える美しい作品です。写真左の作品も同じ手法で制作されており、タイトルからもわかるとおりこれらはシリーズ作品です。これらは、一筆一筆の集積で画面を形づくることで、生命の無限の繋がりを表現した「INFINITY(無限)」シリーズにあたります。

 さらに、下写真の作品は青木さんの原点である「EPIPHANY(顕現)」シリーズ。そして、反射するアクリル板を使ってその場の光や時間や空間を取り込む「PRESENCE(現前)」シリーズ、この3つのシリーズを同時に制作されています。本展ではシリーズそれぞれの作品が展示されていますので、まったく異なる表現を同時に楽しむことができます。

青木恵美子《夏色》

青木恵美子《夏色》2009年 アクリル・油彩・パステル・キャンバス 作家蔵

大石奈穂

大石奈穂《うその融点》

大石奈穂《うその融点》2016年 油彩・白亜・綿布・パネル 作家蔵

 FACE2017で優秀賞を受賞した大石奈穂さんの作品は特に印象に残っています。とにかく驚かされたのが特徴的な絵肌の質感です。とても柔らかそうな、まるで表面に蝋が塗られているかのような独特な素材感が繊細で美しい。油彩画ではありますが、上の作品では白亜(チョーク)、下の作品では石膏と、特殊な素材が用いられています。また、ほとんどの作品で綿布が使われており、おそらくパネルの上に敷いてそこに絵の具を重ねていくのでしょう。会場に「油絵の具を薄くのばし、乾いたら再びなじませ重ねをくり返す」という大石さんの話が掲載されていましたが、薄い層の重なりがこの絵肌の秘密のようですね。一度でいいから制作過程を見てみたいと思わされる、とても新鮮な作品の数々でした。

大石奈穂《slowly blink II》

大石奈穂《slowly blink II》2017年 油彩・石膏・綿布・パネル 作家蔵

大石奈穂《消耗する光 -ネコ- 》

大石奈穂《消耗する光 —ネコ— 》2018年 油彩・白亜・綿布・パネル 作家蔵

石橋暢之

石橋暢之《東京駅》

石橋暢之《東京駅》2018年 ボールペン・紙 作家蔵

 モノクロ写真にも見えるこれらの作品は、なんとすべてボールペンのみを使って描かれています。FACE2017で優秀賞を受賞した作者の石橋暢之さんは、1944年生まれの大ベテラン。しかし、ボールベン画を本格的に描き始めたのは10年ほど前のようです。鉄道マニアの小学生だった石橋さんは、鉛筆を使って蒸気機関車を描いていましたが、真っ黒な線をより細部まで描き込めるということでボールペンに変えたのだそう。0.1mm~0.3mmのペンを使い分け、また筆圧を変えることで濃淡を出しています。

石橋暢之《緊張(発車直前)》

石橋暢之《緊張(発車直前)》2018年 ボールペン・紙 作家蔵

石橋暢之《五重塔》

石橋暢之《五重塔》2017年 ボールペン・紙 作家蔵

石橋暢之《五重塔》(部分)

石橋暢之《五重塔》(部分)

 近くで見ると本当にボールペンで描かれていることがわかります。誰もが日常的に使用する道具によって制作されていると思うと、感動もひとしおです。職人技ともいえる卓越した技術にただただ驚かされました。

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