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【全作家を紹介】『絵画のゆくえ2019 FACE受賞作家展』を損保ジャパン日本興亜美術館にて

杉田悠介

杉田悠介《scope_》

杉田悠介《scope_》2018年 アクリル・パネル 作家蔵

杉田悠介《scope_》

杉田悠介《scope_》2018年 アクリル・パネル 作家蔵

 FACE2017で優秀賞を受賞した杉田悠介さんのグラフィック・アート的な作品は、壮大なスケール感をもつ“余白”が特徴です。本来であれば、「余白」に対して「壮大」という言葉はふさわしくないとも思いますが、杉田さんの作品ではこのふたつが重要な要素として共存しています。例えば上の写真1枚目の作品は、画面のほとんどが水色の海、そして左下に小さくひとりの人物が描かれるという大胆な構図ですが、この人物によって海の広さが見事に表現されています。

杉田悠介《山》

杉田悠介《山》2012年 アクリル・パネル 作家蔵

杉田悠介《山》(部分)

杉田悠介《山》(部分)

 こちらの作品も、よく見るとたくさんの人物が小さく描きこまれています。これによって雪山の壮大さが相対的に表されているのです。この“余白”の使い方は斬新でありとても美しい表現方法だと思いました。

仙石裕美

仙石裕美《それが来るたびに跳ぶ 降り立つ地面は跳ぶ前のそれとは異なっている》

仙石裕美《それが来るたびに跳ぶ 降り立つ地面は跳ぶ前のそれとは異なっている》2017年 油彩・アクリル・キャンバス 損保ジャパン日本興亜美術館蔵

 FACE2018でグランプリを受賞した上の作品は、一年経った今でも強く印象に残っています。作者の仙石裕美さんは、パリ国立美術学校で学んだ経験をもち、個展やグループ展とともに海外のアートショーにも参加しているようです。アクリル絵の具による明るくパキッとした色彩が印象的ですが、躍動感や浮遊感のあるやわらかな表現が魅力だと思います。そして、リアルな身体描写は西洋の古典的な雰囲気を感じさせます。何度もみたくなる、癖になる作品たちです。

仙石裕美《夏の向こうのその向こう》

仙石裕美《夏の向こうのその向こう》2018年 油彩・アクリル・キャンバス 作家蔵

仙石裕美《ある探検家とその青い舟》

仙石裕美《ある探検家とその青い舟》2018年 油彩・アクリル・キャンバス 作家蔵

阿部 操

阿部 操《The beautiful day》

阿部 操《The beautiful day》2017年 油彩・キャンバス 作家蔵

 FACE2018で優秀賞を受賞した《The beautiful day》をはじめとする、独特な質感をもった女性像を多く描いている阿部操(あべ みさお)さん。2015年以降毎年同展で入選を果たすなど、まさに新進気鋭の画家といえるでしょう。本展では女性の全身像を描いた作品が並んでいますが、ポートレート、そして風景画も数多く描いているようです。描かれた女性たちの肌の色合いが見事で、人肌の質感がしっかりと表現されています。そして、彼女たちが身にまとう衣服の柄がとても細かく描きこまれていて美しいです。どの作品も一見すると淡白な印象を受けますが、じっくり鑑賞するとその魅力にどんどん引き込まれていきます。

阿部 操《凛としている》

阿部 操《凛としている》2014年 油彩・キャンバス 作家蔵

井上ゆかり

井上ゆかり《ふたつの海》

井上ゆかり《ふたつの海》2017年 油彩・キャンバス 作家蔵

 FACE2018で優秀賞を受賞した井上ゆかりさんは、このほかにも多くの受賞、入選歴がある油彩作家です。どんよりとした雰囲気が漂う海岸の景色を度々描いており、そこに脈絡のないモチーフがコラージュ的に配置されているのが特徴です。人物は縦に引き伸ばされたように歪んでおり、体も透けています。上の作品中央の白いシルエットで描かれた子供は、ほかの作品でもたびたび登場しています。

井上ゆかり《壮大な独り言》

井上ゆかり《壮大な独り言》2018年 油彩・キャンバス 作家蔵

井上ゆかり《予感》

井上ゆかり《予感》2018年 油彩・キャンバス 作家蔵

井上ゆかりの作品部分

井上ゆかり作品部分

 もうひとつ特徴的なのが、黄色地に白で描かれた精緻な文様です。よく見ると、網目状にすべてが繋がっており、大きな文様は2種類が交互に描かれていることがわかります。まるで刺繍のレースが貼り付けてあるかのような質感で、とても美しいです。ぜひ注目してみてください。

三鑰彩音

三鑰彩音《染みる音》《纏う温度》

三鑰彩音 左:《染みる音》2017年 岩絵具・水干・銀箔、高知麻紙 作家蔵
右:《纏う温度》2017年 岩絵具・水干・金箔、高知麻紙 作家蔵

 素晴らしい作品ばかりの本展において、個人的に最も感動したのはFACE2016で優秀賞を受賞した三鑰彩音(みかぎ あやね)さんの作品です。一目見た瞬間にその美しさの虜にされてしまいました。女性像を数多く描いていますが、その最大の特徴は髪の毛の表現です。まるでステンドグラスの破片が散りばめられているかのようにも見えます。上の作品は多摩美術大学日本画研究領域 修了作品。青と赤の対比、2点並べたときの構図が見事です。下の作品は幅5m超の大作で、大胆に金箔が使われたゴージャスな印象の作品です。

三鑰彩音《白昼夢》

三鑰彩音《白昼夢》2016年 岩絵具・水干・金箔、高知麻紙 作家蔵

 そして特に注目していただきたいのが、岩絵具をはじめとする日本画材を用いて生み出された作品のマチエール(素材感)です。上記のとおり三鑰さんは美術大学で日本画を専攻しており、「日本独自の画材を使った表現を追求したい」、「日本の画材の魅力を海外の人に伝えたい」といったことを語るほど、日本画材に強いこだわりをもっているのです。

 ほとんどの作品は岩絵具、水干絵具(すいひえのぐ)を使い、高知麻紙に描かれています。岩絵具は日本画に使われる画材としてよく知られた顔料です。水干絵具は主に天然の土が原料の日本画絵具で、一度塗って乾かしまた塗り重ねることで複雑な色味が表現できます。艶のないマットな質感が特徴で、三鑰さんの作品にはその特性がしっかりと表れており、作品自体の印象に大きく影響しています。女性の髪の毛を水干絵具、肌などそのほかの部分を岩絵具で描いていると思われますが、この異なる画材による素材感の違いが特徴的なマチエールを生み出しているのです。基底材(支持体)も、芋麻・楮が主原料で日本画によく用いられる高知麻紙を使用するなど、随所に日本画の空気が感じられます。

三鑰彩音《蚕食》

三鑰彩音《蚕食》2018年 岩絵具・水干・金箔、高知麻紙 作家蔵

三鑰彩音《蚕食》(部分)

三鑰彩音《蚕食》(部分)

三鑰彩音《蚕食》(部分)

三鑰彩音《蚕食》(部分)

三鑰彩音《栖 I》

三鑰彩音《栖 I》2018年 岩絵具・水干、高知麻紙 作家蔵

 こちらはおそらく昨年から新たに取り組み始めたと思われる、“栖”(せい 鳥の巣などの意味をもつ)をテーマにした作品です。以前足を運んだベゴニア園に魅せられてモチーフに選んだのだそう。ほかの作品とは作風が異なりますが美しい色彩は健在で、さまざまな色のベゴニアの花が垂れ下がる様子は幻想的な雰囲気すら感じさせます。絵の中に入って行きたくなるような素敵な作品です。

 三鑰さんの作品は、2019年2月11日(月)~2月16日(土)に銀座のsteps galleryで開催されるグループ展『ジャパンアートミュージアム15周年記念展』に出品されます。そして、2月19日(火)~3月18日(月)には、三鑰彩音 個展『-jamais vu-』が西武渋谷店にて開催されます。 同店におけるスプリングプロモーション《百花彩2019》のイメージアーティストとして、個展会場はもちろんショーウィンドウや各フロアのエスカレーターホールなど、全館に作品が展示される大規模な展覧会です。こちらも非常に楽しみですね。詳しくは三鑰彩音公式ホームページをご確認ください。

最後に

絵画のゆくえ2019展示風景

絵画のゆくえ2019展示風景

 3年に一回の開催ということでそれほど知名度の高い展覧会ではありませんが、内容はとても充実しています。多くの応募のなかから厳しい審査を経て、グランプリや優秀賞を受賞された方々の作品のみが展示されているわけですから、質の高さは疑いようがないのです。それに加えて100点を超える展示作品の量、混雑もしていない、観覧料は一般600円で高校生以下は無料ときたらおすすめしない理由がありません。

 新進作家の作品をひとりでも多くの方が目にすることは、この先さらに素晴らしい作品が生まれることにも繋がるでしょう。私にとっても、これらから注目していこうと思える作家との出会いの場にもなりました。みなさんにもそんな出会いがきっとあると思います。2月23日(土)~3月30日(土)にはFACE展2019も開催されますので、そちらとあわせて見逃せない展覧会です。

開催概要

絵画のゆくえ2019 FACE受賞作家展
会期 2019年1月12日(土)~2月17日(日)
休館日 月曜日(ただし1月14日、2月11日は開館、翌火曜日も開館)
開館時間 10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
会場 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
〒160-8338 新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階

観覧料

一般 600円
高校生以下 無料

※学生券をお求めの場合は、学生証の提示が必要
※身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳を提示のご本人とその付添人1名は無料
※被爆者健康手帳を提示の方はご本人のみ無料。

インスタグラムにて記事には未掲載の作品を紹介していますので、よろしければそちらもご覧ください。

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