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写真ならではの芸術表現をめざす『『光画』と新興写真 モダニズムの日本』を東京都写真美術館にて

 東京、恵比寿の東京都写真美術館にて2018年3月6日(火)~5月6日(日)の日程で開催中、「『光画』と新興写真 モダニズムの日本」を観に行きました。本展の紹介とレポートをお送りします。

同時開催の『写真発祥地の原風景 長崎』の紹介はこちら
幕末から明治の長崎を旅する 『写真発祥地の原風景 長崎』を東京都写真美術館にて - Art-Exhibition.Tokyo

 広告表現にも影響を与えた「新興写真」に焦点を当てる

 本展は、1930年前後の日本において盛んとなった「新興写真」に注目した展覧会です。

  1930年、雑誌『フォトタイムス』の編集主幹であった木村専一を中心に「新興写真研究会」が結成され、堀野正雄、渡辺義雄などが参加します。わずか3号ではありましたが、この研究会の雑誌も発行されました。

 また、1932年には写真同人雑誌『光画』が発行されます。1933年までのわずか2年足らずしか発行されませんでしたが、主宰者である野島康三、同人であった木村伊兵衛、中山岩太を中心に、関西(浪華写真倶楽部、芦屋カメラクラブなど)のアマチュア写真家をも巻き込み、新興写真を牽引しました。 評論家の伊奈信男が創刊号に掲載した「写真に帰れ」は、日本近代写真史を代表する論文として知られています。

f:id:async-harmony:20180422102059j:image『光画』第1巻第1号 1932年 聚楽社

 今回はこの二つの雑誌に掲載された写真を中心に、新興写真に影響を与えた海外写真家の作品やその後の写真表現も含めた約150点が展示されます。日本では注目される機会が限られていながらも、さまざまな実験や工夫でその後の広告表現やリアリズム写真にも影響を与えた「新興写真」の、幅広い豊かな写真表現を堪能することができます。

新興写真とは

 「新興写真」とは、人間や物を冷徹な視線で即物的に表現したドイツの「新即物主義(ノイエザッハリヒカイト)」や、現実を無視したまるで夢の中をのぞいているような独特の非現実感をもたらす「シュルレアリスム」などの影響を受けて、それまでのピクトリアリズム(絵画主義写真)とは異なり、カメラやレンズによる機械性を生かし、写真でしかできないような表現をめざした動向です。写真家の伊奈信男はこの新興写真を3つに分類しています。

対象を客観的に正確に把握し、新しい美を表現すべきこと

生活の記録や人生の報告を行うものであるべきこと

光による造形としてフォトグラムやフォトモンタージュがあること

新興写真とはひとつのスタイルや目的をもつ運動ではなく、そこにはさまざまな表現手法が混在しているのです。

f:id:async-harmony:20180421011726j:plain木村専一 〈フォトアウゲ〉より 1931年 東京都写真美術館蔵

f:id:async-harmony:20180422102124j:image中山岩太 《・・・・》1932年 中山岩太の会(兵庫県立美術館寄託)

f:id:async-harmony:20180422102136j:image佐久間兵衛《光画第二巻第三号 表紙》 1932年頃 東京都写真美術館蔵

f:id:async-harmony:20180422102221j:image中山岩太《福助足袋》 1930年 東京都写真美術館蔵

f:id:async-harmony:20180422102235j:image小石清《クラブ石鹸》 1931年 東京都写真美術館蔵

f:id:async-harmony:20180422102259j:image佐久間兵衛《・・・・》 1932年頃 東京都写真美術館蔵

アートとしての写真の魅力に気づかされる

 東京都写真美術館は、日本で唯一の写真・映像の総合美術館として、34000点以上に及ぶさまざまな写真作品を所蔵しています。

 そんな同館にて今回開催されているのは、「新興写真」に焦点を当てた展覧会です。「新興写真」は、新即物主義(ノイエザッハリヒカイト)やシュルレアリスムなどの影響を受け生まれた芸術運動です。本展では、そんな芸術的で刺激的な作品が約150点展示されています。

 本展の観覧は、これまで写真をアートとして捉えたことがあまりなかった自分にとって、良い意味とてもショッキングな体験でした。写真にこれほど心を動かされたのは初めてのことで、今までこの魅力を知らずに生きてきたことを後悔したほどです。昨今は「インスタ映え」を意識してか、とにかく写真を撮りたがる人が多い気がします。しかし、そのような消費される写真に溢れた現代にこそ、「新興写真」のもつ芸術性は、多くの人の心を動かすのではないでしょうか。幅広い世代の方に観ていただきたいと思える展覧会でした。

 ちなみに美術館2階にて『写真発祥地の原風景 長崎』も同時開催されているほか、地下1階では入場無料の『清里フォトアートミュージアム収蔵作品展原点を、永遠に。-2018-』も開催中です。どれも素晴らしい展覧会でしたので、本展とあわせての鑑賞をおすすめします。

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開催概要

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会期:2018年3月6日(火)~5月6日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし、4月30日[月・振休]、5月1日[火]は開館)
会場:東京都写真美術館3F

観覧料金

一般 700(560)円/学生 600(480)円/中高生・65歳以上 500(400)円
※ ( )は20名以上団体、「恵比寿ガーデンシネマ」の映画鑑賞券ご提示者、各種カード会員割引/ 小学生以下、都内在住・在学の中学生および障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料/第3水曜日は65歳以上無料/年間パスポートご提示者無料(同伴の方1名様まで無料)
※東京・ミュージアム ぐるっとパス2018が利用可能です。
※同時開催の『写真発祥地の原風景 長崎』とは別料金がかかります。

アクセス

 会場の東京都写真美術館は、恵比寿駅から徒歩約7分の、「恵比寿ガーデンプレイス」内にあります。今回はその道のりを写真を使って紹介します。

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 JR恵比寿駅の東口改札がスタートです。改札を出たらすぐ右に曲がります。

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少し進むと通路が2つに分かれるので、右の通路に進みます。

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すぐに「スカイウォーク」という連絡通路がありますのでそちらを進みます。

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最後まで進んだら左側の出口から外に出ます。

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正面に見えるのが「恵比寿ガーデンプレイス」です。信号を渡って敷地内に入ります。

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レンガ造りの建物を右手に奥へと進んでいきます。

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建物の角まで進んだら、右に曲がります。

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突き当りが会場の東京都写真美術館です。入館後、正面のチケットカウンターにて入場券を購入し、エレベーターで3階に上がります。チケットカウンターの奥に無料のロッカーがありますので、大きな荷物はそちらに預けましょう。

『写真発祥地の原風景 長崎』の紹介はこちら
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