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『 ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち』を世田谷美術館にて
レポート・感想、解説をお送りします。

投稿日:2018/02/05

パリジェンヌ展

  東京、世田谷の世田谷美術館にて開催中『 ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち』のレポートと見どころ解説をお送りします。ボストン美術館に所蔵されているコレクションのなかから、「パリジェンヌ」にまつわる作品を集めた展覧会を紹介します。

ボストン美術館のコレクションのなかから「パリジェンヌ」に焦点を絞った約120点の作品を展示

  18世紀以降、近代化が進んだパリは政治と文化の中心地となりました。そんなパリで暮らす女性たちは「パリジェンヌ」と呼ばれ、最先端の流行を生み出したり、多くの芸術家たちの表現に影響を与えました。貴族や裕福な市民による社交の場であるサロンを主催者として取り仕切った邸宅の女主人、斬新なファッションで新たな流行を生み出したファッショニスタ、そして子供を育てる美しい母。画家のミューズとして作品に描かれ、さらには自ら道を切り開き活躍した画家や女優。当時の男性優位社会において、独自の価値観をもち強く生きる「パリジェンヌ」の姿は、今なお多くの人々を惹きつけます。

 本展覧会では、アメリカ・ボストン美術館のコレクションのなかから絵画はもちろんのこと、美術品や歴史資料など、徹底的に「パリジェンヌ」にコンセプトを絞った約120点を展示し、 18世紀から20世紀のパリを体現する女性たちの姿を歴史を追って紹介しています。

50万点ものコレクションを誇るボストン美術館 

 ボストン美術館は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストン市にあります。1876年に開館した同館は、古代から現代にいたるまでの約50万点にもおよぶコレクションを有しています。なかでも印象派絵画や日本美術の所蔵が充実していることで知られており、年間100万人以上の人々が来館する世界有数の美術館です。

ゆったりと展示された作品を優雅に鑑賞

 本展の会場となっている世田谷美術館は、自然豊かな砧公園内にあります。静かな公園の散策と併せて1日楽しめますね。会場内も広いスペースにゆったりと作品が展示されており、1点1点じっくりと鑑賞することができました。

 出品点数は約120点と比較的多めですが、資料的な展示品も多く含んでいるので、そこまでボリュームがあるようには感じませんでした。ゆっくり鑑賞して2時間弱といったところでしょうか。展示は1階と2階に分かれており、それぞれでチケットの提示が必要になりますので失くさないように注意してください。

音声ガイドナビゲーターは、中村江里子さん

 音声ガイドのスペシャル・ナビゲーターは、フリーアナウンサーの中村江里子さんが担当しています。 中村さんはパリに暮らしていらっしゃるということで、リアルな「パリジェンヌ」についてのお話が聞けてとても興味深かったです。音声ガイド機は展覧会入場後に借りられます。

所要時間 約30分 貸出価格 1台520円
出演:中村江里子さん(フリーアナウンサー)、梅原裕一郎さん(声優)

解説盛りだくさんの図録

 図録は作品画像はもちろんのこと、解説がとても充実しているのが高評価です。ソフトカバーでサイズがB5のためか、価格は1800円とお買い得で、とてもおすすめできる図録だと思います。会場限定の図録購入特典として展覧会ポスターがもらえました。単体400円のトートバッグとセットで購入すると特別価格の2000円になるのでそちらもチェックしてみてください。

それでは見どころを紹介していきます。

修復後初公開となるマネの大作

 本展最大の見どころは、約70年ぶりに行われた大規模な修復後初めて来日する、印象派の巨匠エドゥアール・マネの《街の歌い手》です。ギターを抱えて居酒屋から出てきた流しの歌手を描いた作品で、モデルになっているのはマネのお気に入りのヴィクトリーヌ・ムーランです。修復によって、これまで鈍くうす汚れた灰色だった上着やスカートは、実際には青みがかったグレーであったことが判明。さらに、スカートにはうっすらとストライプがあることもわかり、当時の最新流行のファッションを身にまとった姿が浮き彫りとなりました。かなり大きな作品で、見応えもあります。

エドゥアール・マネ 《街の歌い手》

エドゥアール・マネ 《街の歌い手》 1862年頃 油彩・カンヴァス 171.1x105.8cm Bequest of Sarah Choate Sears in memory of her husband, Joshua Montgomery Sears 66.304

ドガやルノワールの作品も

 マネとならぶ印象派の代表的画家である、ドガやルノワールの作品も展示されています。パリジェンヌは、こういった芸術家たちの想像力をかきたてるミューズとなったのです。

エドガー・ドガ 《美術館にて》

エドガー・ドガ 《美術館にて》 1879–90年頃 油彩・カンヴァス 91.8x68cm Gift of Mr. and Mrs. John McAndrew 69.49

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《アルジェリアの娘》

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《アルジェリアの娘》 1881年 油彩・カンヴァス 50.8x40.6cm Juliana Cheney Edwards Collection 39.677

女流画家による作品にも注目

 18世紀末以降、小説家や批評家として活躍する女性が現れましたが、その一方で母として家庭を守るべきという古い価値観も根強く残り、国立美術学校では男性のみが入学を許可され、女性は排除されるといった厳しい現実がありました。しかし、そんななかでも優れた才能を発揮して活躍した女流画家も少数ながら存在しました。ピサロやドガからの支持を受けたメアリー・スティーヴンソン・カサットや、マネの作品におけるモデルとしても知られるベルト・モリゾなどです。

 19世紀後半には、伝統的な美術教育機関であったアカデミーに対し、印象派やソシエテ・デ・パントゥル=グラヴール(画家・版画家協会)などの新しい勢力が台頭し、美術界は大きな変化を遂げます。こうした新しい主題、様式、展示の場が生まれる中で、「パリジェンヌ」たちも、新たな技術向上の機会、共同制作、作品発表の場を得るようになったのです。

   本展にはカサットやモリゾの作品も展示されています。女流画家ならではの繊細な表現に注目してみてください。

メアリー・スティーヴンソン・カサット 《縞模様のソファで読書するダフィー夫人》

メアリー・スティーヴンソン・カサット 《縞模様のソファで読書するダフィー夫人》 1876年 油彩・板 34.3x26.7cm Bequest of John T. Spaulding 48.523

ベルト・モリゾ 《器の中の白い花》

ベルト・モリゾ 《器の中の白い花》 1885年 油彩・カンヴァス 46×54.9cm Bequest of John T. Spaulding 48.581

ファッションの歴史も学べる

 現在でもパリはファッションにおける流行の最先端の地として知られていますが、そんな文化を生み出したのも18世紀以降のパリジェンヌたちです。本展では、パリジェンヌに欠かすことのできないファッションの歴史についても多くの作品や資料によって知ることができます。

 18世紀頃から舞踊の世界の中心地はパリへ移り、女性の活躍する機会が広がります。舞台で使われたドレスや工夫を凝らした髪型は、定期刊行物を通じて流行していきました。

《ドレス(3つのパーツからなる)》

《ドレス(3つのパーツからなる)》 1770年頃 緯浮織のシルクカネル、シルク糸のあるブロケード 71.1x152.4cm The Elizabeth Day McCormick Collection 43.1643a-c

《ヴィーナス…『ギャルリー・デ・モード・エ・コスチューム・フランセ』フランスの衣服25、1779年の流行の衣服19より aa.150》

原画、版刻:ジャン=バティスト・マルタン 出版:エスノー、ラピイ 《ヴィーナス…『ギャルリー・デ・モード・エ・コスチューム・フランセ』フランスの衣服25、1779年の流行の衣服19より aa.150》 1779年 エッチング、手彩色 39.4x25.4cm The Elizabeth Day McCormick Collection 44.1429

 1852年のナポレオン3世による第二帝政の始まりによって近代化が進んだ街で、人々はウィンドウショッピングを楽しみ、広告や雑誌はさまざまな商品を取り上げ、消費が拡大していきます。1858年には、シャルル・フレデリック・ウォルトがパリに高級仕立て屋を開業し、いわゆるオートクチュールの先駆けとなる、店員に見本の衣装を着せて客に選ばせるという新たな販売手法を確立しました。

 女性は流行の衣服にショール、バッグ、靴といった装身具で、完璧な装いを披露しました。パリジェンヌについて論じた本も出版され、そのスタイルは憧れの対象となります。パリの流行は、海を越えてアメリカにまで伝わっていきました。

《ドレス(5つのパーツからなる)》

シャルル・フレデリック・ウォルト ウォルト社のためのデザイン 《ドレス(5つのパーツからなる)》 1870年頃 経縞模様の平織シルク(ファイユ)、刺繍を施したシルクのシェニールで縁取ったコットンボビンレース、シルクとコットンの裏地 スカート:106.7cm、ボディス:71.1 cm Gift of Lois Adams Goldstone 2002.696.1,3-5

ジョン・シンガー・サージェント 《チャールズ・E. インチズ夫人(ルイーズ・ポメロイ)》

ジョン・シンガー・サージェント 《チャールズ・E. インチズ夫人(ルイーズ・ポメロイ)》 1887年 油彩・カンヴァス 86.4x60.6cm Anonymous gift in memory of Mrs. Charles Inches' daughter, Louise Brimmer Inches Seton 1991.926

ウィリアム・モリス・ハント 《マルグリット》

ウィリアム・モリス・ハント 《マルグリット》 1870年 油彩・カンヴァス 128.3×94.9cm A. Shuman Collection Abraham Shuman Fund 26.63

 1900年のパリ万国博覧会を機に、女性のファッションはより一層洗練されていきます。本展にはピエール・カルダンやクリストバル・バレンシアガといった、現代ファッションにおける一流ブランドの歴史的名作も展示されます。

ピエール・カルダン 《ドレス》

ピエール・カルダン 《ドレス》 1965年頃 ウールダブルニット、ビニールのアップリケ 82.6cm Joyce Arnold Rusoff Fund 1998.436

 20世紀に入ると、パリにはミュージックホールやキャバレーが次々に開店し、歌手や踊り子として女性が活躍しました。仕事やスポーツにいそしむ女性も増え、その行動範囲は広がっていきます。そんな女性たちの姿が、2度の大戦を経たパリの街に再び活気をもたらし、若者たちが政治からポップカルチャーやファッションにいたるまで、時代を牽引する存在となっていくのです。

レギーナ・レラング 《バルテ、パリ》

レギーナ・レラング 《バルテ、パリ》 1955年 ゼラチン・シルバー・プリント 26.7x23.5cm Gift of Leon and Michaela Constantiner 2010.429

最後に

 徹底的に「パリジェンヌ」に焦点を絞った展覧会で、観に行くまではとても斬新だと思っていたのですが、実際に観てみるとパリジェンヌたちがいかに芸術家たちの表現に強い影響を与えたのかがよくわかり結果的にとても納得のできる素晴らしいテーマだと感じました。

 本展では、絵画はもちろんファッションに関する作品も多く展示されており、美術展にとどまらない「パリジェンヌ」という一つの文化を紹介する展覧会です。女性の権利に対する関心が高まっている今こそ、多くの人に観てもらいたいと思いました。

以上、『 ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち』のレポートでした。

開催概要

会期:2018年1月13日(土)~4月1日(日)
会場:世田谷美術館 〒157-0075 東京都世田谷区砧公園1-2
開館時間:10:00~18:00 ※入場は17:30まで
休館日:月曜日 ※2月12日(月・振替休日)は開館、翌13日(火)は休館

観覧料

一般:1,500(1,300)円、65歳以上:1,200(1,000)円、大高生:900(700)円、中小生:500(300)円
※( )内は前売/団体(20名以上)
※障害者の方は500円(介助の方1名まで無料)、大高中小生の障害者の方は無料
※リピーター割引/会期中、本展有料チケットの半券をご提示いただくと、2回目以降は団体料金でご覧いただけます。

アクセス

 東急田園都市線「用賀」駅から、美術館行バスに乗り「美術館」にて下車して徒歩3分です。美術館行きのバスは1番乗り場から出ています。2018年2月10日~4月1日の土曜、休日限定で直行バスも運行していますので、時刻表をあらかじめ確認してご利用ください。

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