上野周辺 西洋美術

レポート編『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』を国立西洋美術館にて 初日に行った感想、混雑状況、見どころもお伝えします。

プラド美術館展

 上野の国立西洋美術館にて2018年2月24日(土) – 5月27日(日)の日程で開催中の『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』レポート編です。日本とスペインの外交関係樹立150周年を記念して開催される特別な“プラド美術館展”のレポートをお送りします。 
概要と見どころを紹介した解説編はこちら
(解説編『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』国立西洋美術館 概要、見どころを解説します。 - Art-Exhibition.Tokyo)

開催初日の夜は穏やかな混雑状況
夜間開館日がおすすめ

 日本では5回目の開催となる人気展覧会『プラド美術館展』ですが、今回は過去最多となる7点のベラスケス作品が来日するほか、世界で最も魅力的な美術館ともいわれるスペイン・プラド美術館から、17世紀絵画黄金時代の傑作が多数出品される本年度最注目の展覧会の一つです。

 満を持して開催された本展を、初日である2/24(土)18時頃に観覧してきました。毎週金曜日と土曜日は20時まで開館しており、どの展覧会でも夕方以降というのは比較的空いている傾向にありますので、この時間を狙って向かいました。予想していた通りとても空いていて快適に鑑賞することができました。早い時間帯は多少混雑していたようですので、ゆったりと鑑賞したい方はやはり夜間開館日である金・土曜日の夕方以降がおすすめです。そのほかの曜日でも遅めの時間帯の方が空いていると思われます。

プラド美術館展

 じっくり2時間鑑賞して、閉館まで滞在しました。夕方以降がおすすめとは言いましたが、閉館間際で焦って鑑賞することになっては元も子もないので、少なくとも1時間30分~2時間くらいは見積もって向かった方がいいと思います。18時に会場に到着したら鑑賞を終えたのがギリギリになってしまいました。とはいえ閉館間際は非常に空いていますので、少し時間を残して全体の鑑賞を終え、最後に気になった作品を再度観に行くなんていうのもいいかもしれませんね。

音声ガイドは鑑賞に役立つ知識が盛り沢山

 音声ガイドはミュージシャンや俳優として活躍している及川光博さんが担当されていますが、基本的には解説ナレーション担当の平田栞莉さんがメインでお話しになっている印象でした。予習をして行ったのですが、それでも「へぇ~」となる知識が盛り沢山でしたのでとてもおすすめです。

見応えがある大作が多数

  本展には、全部で61点の油彩画と9点の資料が展示されていますが、出品点数自体はそれ程多いというわけではありません。しかし、展示されている作品には比較的大きな作品が多数含まれており、なかには3mを超える大作もあります。やはりそういった作品はとてもインパクトがありますし、近くで観たり離れて観たりと鑑賞のしがいがありますから結果的に出品点数も丁度良かったと思います。

アントニオ・デ・ペレーダ《ジェノヴァ救援》

アントニオ・デ・ペレーダ《ジェノヴァ救援》(No.27) 1634-35年 油彩、カンヴァス 290×370cm マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

 こちらはペレーダによる290×370㎝の大作《ジェノヴァ救援》です。12点からなるスペイン軍の戦勝画の1点です。こういった作品は椅子に腰かけてじっくり鑑賞したいですね。ほかにも2mを超える作品が多数出品されており、どれも非常に見応えがあります。

“西洋絵画史上最も重要な画家”は伊達じゃない
異彩を放つベラスケス作品

 本展最大の見どころは、西洋絵画史上最も重要な画家の一人ともいわれるディエゴ・ベラスケスの作品です。かつて、印象派を代表する画家であるマネが友人の画家への手紙の中で、「ベラスケスの作品を観るためだけにマドリードへ旅をすることは十分価値のあること」「あらゆる画家が、マドリードの美術館では単なる見習い画家に思える。彼は画家の中の画家である」と綴ったほど、衝撃を受けたことで知られ、後続の画家に与えた影響は計り知れません。その巨匠ベラスケスの作品が過去最多となる7点、しかも彼のキャリアにおける超重要作品ばかりが来日するということで、とても楽しみにしていました。

 てっきり7点がまとまって展示されているのかと思っていましたが、実際には他の作品と一緒に全てバラバラで展示されており、展覧会入口すぐの場所にも1点展示されています。

 実際に生で観て、また同時代の画家たちの作品と見比べてみて、その圧倒的な個性や表現方法にとても衝撃を受けました。特に注目していただきたい点は、その大胆な筆致です。ベラスケスの作品は一見すると凄く繊細な筆遣いによって描かれているように見えますが、近くでよく見てみると素早くて大胆な筆致で描かれていることに気付くと思います。

ディエゴ・ベラスケス《マルス》

ディエゴ・ベラスケス《マルス》(No.14) 1638年頃 油彩、カンヴァス 179×95cm マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Pradoz

ディエゴ・ベラスケス《メニッポス》

ディエゴ・ベラスケス《メニッポス》(No.9) 1638年頃 油彩、カンヴァス 179×94cm マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

 例えば、上画像右の《メニッポス》では脚や靴を注視してみてください。少し驚くくらいに荒く描かれています。画像左の《マルス》でも同様に、地面に置かれた盾や甲冑などを近くで見るとその大胆な筆遣いが見て取れます。全体的に輪郭もはっきりしていません。また、別記事で紹介したように頭にかぶった兜の装飾にも、まるで「染み」にしか見えないほど荒い筆致が確認できます。しかし、不思議なことにこれらの特徴が作品から離れて見ると非常にリアルな質感を表現しており、荒さ、大胆さとは真逆の繊細な印象を鑑賞者に与えます。これは見事としか言いようがなく、多くの偉大な画家たちが衝撃を受けたことも納得です。是非ともベラスケス作品は、至近距離でその大胆な筆致を確認して、そして離れて繊細な質感を感じていただけたらと思います。

ディエゴ・ベラスケス《狩猟服姿のフェリペ4世》

ディエゴ・ベラスケス《狩猟服姿のフェリペ4世》(No.21) 1632-34年 油彩、カンヴァス 189×124cm マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

 こちらはベラスケスの主君であり、当時のスペイン国王であったフェリペ4世を描いた作品ですが、左の腰から足首にかけてをよく見ていただくと、うっすらと影のようなものが確認できると思います。これは当初描いたものをのちに修正した跡で、最初は左足を今より外側に、腰にも巾着袋のようなものを付けて描かれたのです。さらに猟銃の銃口部分に注目すると、銃の長さが短く修正されているのが確認できます。これらの跡は、絵具が経年変化で透明化したことで見えるようになったものなのですが、ベラスケスの試行錯誤がうかがえる貴重な作品です。こちらも生で確認してみてください。

ディエゴ・ベラスケス《東方三博士の礼拝》

ディエゴ・ベラスケス《東方三博士の礼拝》(No.51) 1619年 油彩、カンヴァス 203×125cm マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

 この作品は展覧会後半に展示されているキャリア初期の作品です。宮廷画家になる数年前の作品で、作風も宮廷画家時代とは大きく異なります。しかし、その類稀なる才能はこの時点から十分に感じることができます。個人的には、宮廷画家として描いたほかの6点との違いによって、かえってこの作品がとても印象に残りました。プラド美術館が所蔵するベラスケス作品のなかでもかなり古い部類に入る作品でとても貴重ですので、お見逃しなく。

ベラスケスについて、出品される7点についての詳しい解説はこちらに書きました。
(解説編『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』国立西洋美術館 概要、見どころを解説します。 - Art-Exhibition.Tokyo)

そのほかも素晴らしい作品ばかり

 本展にはベラスケス以外にも素晴らしい作品が多数出品されています。傑作ばかりのプラド美術館コレクションですが、そのなかでも絵画黄金時代である17世紀の作品ばかりが集められていますので、どれも本当に見逃せません。

ヤン・ブリューゲル(父)、ヘンドリク・ファン・バーレン、ヘラルト・セーヘルスら《視覚と嗅覚》

ヤン・ブリューゲル(父)、ヘンドリク・ファン・バーレン、ヘラルト・セーヘルスら《視覚と嗅覚》(No.13) 1620年頃 油彩、カンヴァス 176×264cm マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

 個人的に印象的だった作品は、上画像のヤン・ブリューゲル1世(父)が監督の下、他の専門画家と共作した《視覚と嗅覚》です。五感を2枚のカンヴァスに分けて表した対作のうちの1枚で、テーブルの傍らで座って鏡を覗き込む女性が視覚を、花の匂いを嗅ぐ女性が嗅覚を表しています。「花のブリューゲル」とよばれたヤン・ブリューゲル1世ですが、画面内に描かれてる花々が彼によるものだということがすぐにわかりますね。なんとも幻想的で魅力的な作品です。

デニス・ファン・アルスロート《ブリュッセルのオメガング もしくは鸚鵡(オウム)の祝祭:職業組合の行列》

デニス・ファン・アルスロート《ブリュッセルのオメガング もしくは鸚鵡(オウム)の祝祭:職業組合の行列》(No.42) 1616 年 油彩/カンヴァス マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado(スペイン外務省に寄託)

 こちらはアルスロートによる、今でも毎年ベルギー・ブリュッセルで行われている“オメガング”という催し物を描いた作品です。14世紀にサブロン教会に祀られたマリア像の周囲を行列したことが起源とされ、この絵で列を成しているのは職業組合の人々だそうです。幅3.8mを超える大きな絵に非常に細かく沢山の人が描かれており、本展においてもある意味異色といえますが、そのインパクトの強さからとても印象に残っています。

 そのほか、ベラスケス《メニッポス》(No.9)と対を成す形で展示されていたルーベンス《泣く哲学者ヘラクレイトス》(No.10)や、同じくルーベンス の《聖アンナのいる聖家族》(No.60)とムリーリョ 《小鳥のいる聖家族》(No.61)では、「哲学者」「聖家族」とそれぞれ同じテーマを描いていながら、全く表現が異なる2作品の対比というのが見て取れて非常に興味深かったです。

最後に

 この先の人生で一度は行ってみたいプラド美術館ですが、今回はそんな世界有数の美術館の一級品が集まり、なかでも門外不出ともいわれるベラスケス作品が7点も出品される過去最高の『プラド美術館展』です。僕を含めなかなかマドリードまでは行かれないという方が多いと思いますので、是非ともこの機会をお見逃しなく。

 そして毎度のことですが、会期後半になるにつれて間違いなく混雑していくことが予想されますので、可能な限り早めに行かれることをおすすめします。

以上、『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』レポート編でした。

概要と見どころを紹介した解説編はこちら
(解説編『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』国立西洋美術館 概要、見どころを解説します。 - Art-Exhibition.Tokyo)

開催概要

会場:国立西洋美術館(上野公園)
会期:2018年2月24日(土) – 5月27日(日)
休館日:月曜日 ※3月26日(月)、4月30日(月)は開館
開館時間:午前9時30分 – 午後5時30分 (金曜日、土曜日は午後8時まで) ※入館は閉館の30分前まで

観覧料金

当日: 一般 1,600円 大学生 1,200円 高校生 800円
※中学生以下無料※心身に障害のある方及び付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)※2018年2月24日(土)~3月4日(日)は高校生無料観覧日(入館の際に学生証をご提示ください)

巡回情報

兵庫展
会場:兵庫県立美術館(神戸市)
会期:2018年6月13日(水) – 10月14日(日)
休館日:月曜日 (ただし祝休日の場合は開館、翌火曜日休館)
開館時間:午前10時 – 午後6時 (金曜日、土曜日は午後8時まで) ※入場は閉館の30分前まで

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