多摩周辺 日本美術

未知の領域に挑む江戸時代の日本画家たち『リアル 最大の奇抜』を府中市美術館にて

投稿日:2018/04/13

 東京、府中市にある府中市美術館にて2018年3月10日(土)~5月6日(日)の日程で開催中、『リアル 最大の奇抜』を観に行きました。本展の見どころ解説とレポートをお送りします。

「奇想」と対を成す「リアル」の魅力に迫る

森狙仙《群獣図巻》(部分)

森狙仙《群獣図巻》(部分) 個人蔵

 明治時代の欧化政策を背景に、西洋の画法をあらゆる美術の基本とする考え方が、近代以降の日本に定着しました。そのため、リアルに描くことは美術の基本と考えている人は少なくありません。しかしそれは、あくまでも近代の話であり、極めて限られた「リアル」のあり方です。迫真性にこだわらない、純粋な色や形そのものから醸し出される美しさは、日本絵画の大きな魅力だったのです。

  しかし江戸時代になると、そんな日本の絵画の「美しいものづくり」において必要とされなかった、あるいは意識外だったことを追及する画家が現れます。そのうちの一人が円山応挙です。応挙は、目に映る有り様を冷静に分析して画面に表す徹底した「リアル」の画家であり、既成の美の手段を破壊した創作者でした。「奇想の画家」と呼ばれる曽我蕭白が次のように語ったというのは有名な話です。
「画を求めるなら自分に、図を求めるなら円山応挙に頼めばよい」
これは当時の人々の「リアル」に対する一つの受け取り方を示す、非常に興味深い内容ではないでしょうか。

 江戸時代中期以降、応挙や司馬江漢といったさまざまな画家たちが、思い思いの手法で迫真的に表すことから生まれる未知の絵画の魅力を探っています。西洋絵画を目標にした明治以降とは違い、彼らの作品は、見た目も技法も多様です。また、それまでの「絵画の美とはこうあるべき」という考えや美意識と葛藤する様子、あるいは融合を試みる様子もみられます。

 本展では、近代日本画の出発点とみなされることの多い江戸時代の「リアル」を、未知の領域に挑む画家たちの“創造”と捉え、前後期合わせて約120点の作品を通してその魅力に迫るとともに、「奇想」と対を成す「リアル」の全貌を概観することができます。

宋紫岡《花籠図》

宋紫岡《花籠図》個人蔵

祇園井特《美人図》

祇園井特《美人図》個人蔵

葛飾北斎《雪中鷲図》

葛飾北斎《雪中鷲図》摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託)

「リアル」の創始者としての司馬江漢と円山応挙

 本展では様々な手法で独自のリアリズムを表現した数多くの画家たちが紹介されていますが、そのなかでも司馬江漢と円山応挙という二人を大々的に取り上げ、『従来の「描き方」や「美意識」との対立と調和 二人の創始者 司馬江漢と円山応挙』と題した章が最後のエリアに設けられています。その表現方法は違えど、日本画の枠組みをはみ出し、リアリズムという未知の領域に挑んだ二人の創始者の作品をじっくりと堪能することができます。

洋風画の開拓者・司馬江漢

 司馬江漢は延享4年(1747年)江戸の町家に生まれ、15歳の時父の死をきっかけに狩野派の狩野美信(洞春)に絵を学びます。その後浮世絵師、鈴木春信の弟子となって美人画を描き、さらには宋紫石に入門して花鳥画を描きましたが、次第に西洋画に傾倒していきます。江漢は荏胡麻の油を使用した油彩画を描いたことで知られ、遠近法の研究によって得たリアルな表現力とともに洋風画の開拓者となります。

 日本画においてはそれまで、描くべきものを美しく表現すればあとは画面の余白として処理すればよいという考え方から、「空を描く」意識は希薄でした。しかし、西洋絵画では「ある一点から見た光景」をまるごと写すというのが基本でした。つまり自ずと空も描くことになります。そんななか司馬江漢は、度々作品に美しい空を描き「空の画家」とも呼ばれました。近代まで見渡しても、これほど空の美しさに目を向けた画家は非常に稀です。

司馬江漢《円窓唐美人図》

司馬江漢《円窓唐美人図》府中市美術館蔵

司馬江漢《馬入川富士遠望図》

司馬江漢《馬入川富士遠望図》摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託)

司馬江漢《七里ヶ浜図》

司馬江漢《七里ヶ浜図》個人蔵

司馬江漢《犬に木蓮図》

司馬江漢《犬に木蓮図》府中市美術館寄託

 「技巧的に描くこと」と「簡潔な描写で精神性を表現すること」。そのどちらにも惹かれていた江漢は、本作において西洋画的な木蓮と日本画的な犬を同時に描くことで二つの相反する表現を共存させています。

「リアル」の画家・円山応挙

 円山応挙は享保18年(1733年)、丹波国桑田郡穴太村(現・京都府亀岡市)に農家の次男として生まれます。遅くとも10代の後半には京へ出て、狩野派の一派である鶴沢派の画家、石田幽汀から絵を学びました。27歳の頃、京都四条通柳馬場の尾張屋中島勘兵衛という玩具商に勤めていた際に、江戸時代に描かれた浮世絵の一種「眼鏡絵」(めがねえ)を描き、西洋画法を修得します。33歳頃から円満院門主、祐常との関わりをもち、中国の古画や清画の写実技法を学びました。室内にまるで本物の光景が出現したかのようなリアルな画風は多大な人気を獲得し、近現代の京都画壇にまでその系統が続く「円山派」の始祖となります。

 応挙は近世の日本画家のなかでもとくに写生を重視したことで知られています。常に写生帖を持ち歩き、暇さえあればスケッチをしていたといわれており、実際に数多くの動物や昆虫、植物などを描写した作品を残しています。徹底した写生に基づくリアルな自然描写を実践しながらも、日本画における伝統的な画題を扱い、大胆な革新を生み出したのです。

 本展では日本の写生画の傑作、《猛虎図》や《鯉魚図》をはじめ、名作が多数出品されています。

円山応挙《猛虎図》

円山応挙《猛虎図》摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託)

円山応挙《虎皮写生図》

円山応挙《虎皮写生図》本間美術館蔵

円山応挙《時雨狗子図》

円山応挙《時雨狗子図》府中市美術館 個人蔵

円山応挙《鯉魚図》

円山応挙《鯉魚図》個人蔵

レポート

 自然豊かな「都立府中の森公園」のなかにある府中市美術館では、独自の視点で作品を見つめ直す、意欲的な展覧会が定期的に開催されています。本展は、『春の江戸絵画まつり』という企画によるもので、同企画はおそらく今回が2回目、さらに来年の開催も発表されています。

 そんな本展は江戸時代の日本画におけるリアリズムに焦点を当てた展覧会です。近年は伊藤若冲のブームに始まり、岩佐又兵衛や狩野山雪、曽我蕭白や歌川国芳など、それまでの「侘・寂」といった日本画のイメージを覆すような鮮やかな色彩や大胆な構図を描く、いわゆる「奇想の画家」が再評価されています。そんななか、西洋のものとは違う、日本画独自のリアリズムを今一度見つめ直そうという趣旨のもと企画された本展では、「リアル」の画家、円山応挙を中心に、さまざまな画家の名作が並んでいます。

 前期後期合わせて119点、それぞれ70点弱が展示され、ボリュームも申し分ないですし、順番に観ていくことで日本画における写実表現の全貌を見渡すことができるよう構成されているため、非常に鑑賞しやすかったです。

 出品作品の多くが掛け軸で、あくまでも伝統的な日本画のスタイルを用いながら、江戸時代に描かれたことが信じられないほど見事な写実性に驚きました。現代では「本物のように描くこと」は、当たり前のことすぎて当時の斬新さを感じるのは難しいかもしれませんが、ここでは一度、西洋画の影響を受けた近代日本画とは切り離して、江戸時代に生まれた新しい表現として鑑賞するべきでしょう。当時の人々にとってはこれこそが「最大の奇抜」だったのです。とはいえそういった深いことを考えなくても十分感動を得られると思いますが。

 名だたる画家たちのなかでも円山応挙の写実表現はもはや別格です。徹底的に取り組んだ写生によって得た「リアル」を捉え、表現する力に思わずため息が漏れてしまいました。そんななか、雨に濡れた犬が地面についた自分たちの足跡を見て笑っているようななんとも愛らしい作品、《時雨狗子図》にはほっこりさせられてしまいます。

 同じ部屋に展示されていた司馬江漢の作品も非常に印象的でした。日本画でありながら油彩で描かれた洋風画というなんとも不思議な作品の数々が異彩を放っています。応挙とは全く異なったかたちで、独自の「リアル」を開拓した創始者としての魅力を存分に堪能することができました。

 平日のお昼頃に行きましたが、とても空いていて快適に鑑賞することができました。広さのある展示室にゆったりと作品が展示されているのも好印象です。本展のチケットで充実した内容の常設展も観ることができますので、そちらもあわせて鑑賞してみてください。

 1階のミュージアムショップとは別に、2階展覧会出口前に物販スペースがありました。ここでは図録をはじめ、種類豊富なポストカードなどいろいろなグッズが販売されていました。正方形が特徴的な図録は、解説やコラムが盛り沢山の充実した内容で、価格は2300円です。

リアル最大の奇抜の図録

 また、物販の前には無料でオリジナル絵はがきを作ることができるコーナーが設けられていました。用意されたはがきに好きなスタンプを押して、自分だけの絵はがきが作れます。ちょっとしたことですが、こういった計らいは嬉しいですよね。ぜひ記念に。

リアル最大の奇抜絵はがき

リアル最大の奇抜絵はがき2

リアル最大の奇抜絵はがき

最後に

 今回は江戸絵画における写実表現ということですが、これは西洋絵画はもちろん近代日本絵画のそれとも違ったこの時代ならではのものだと思います。やはり未知の領域に挑もうとする貪欲な姿勢が非常に刺激的ですし、そのなかで各々が独自の表現を模索したゆえの個性も観ていてとてもわくわくしました。少し地味であまりフューチャーされないテーマだと思いますので、みなさんもぜひこの機会に「リアル」の画家たちによる「最大の奇抜」を見つめ直してみてください。以上、『リアル 最大の奇抜』の見どころ解説とレポートでした。

開催概要

会期:2018年3月10日(土)~5月6日(日)
*全作品ではありませんが、大幅な展示替えを行います。
前期 3月10日(土)~4月8日(日)
後期 4月10日(火)~5月6日(日)
休館日:月曜日(4月30日は開館)
開館時間:午前10時~午後5時(入場は午後4時30分まで)

観覧料

一般700円(560円)、高校生・大学生350円(280円)、小学生・中学生150円(120円)
※( )内は20名以上の団体料金※未就学児および障害者手帳等をお持ちの方は無料※常設展もご覧いただけます

アクセス

京王線「府中駅」から、「ちゅうバス」のご利用が便利です。
府中駅までは、京王線新宿駅から、特急、準特急で約20分です。

京王線「府中駅」から
徒歩約18分
ちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車すぐ 府中駅バスターミナル7番乗り場から、8時から毎時30分間隔で運行。運賃100円

京王線「東府中駅」北口から
徒歩約17分
ちゅうバス(府中駅行き)「府中市美術館」下車すぐ 8時5分から毎時30分間隔で運行。運賃100円

JR中央線「武蔵小金井駅」南口から
京王バス府中駅行き(一本木経由、武71)「一本木」下車すぐ
京王バス府中駅行き(学園通り経由、武73)「天神町幼稚園」下車徒歩8分

JR武蔵野線「北府中駅」から
京王バス府中駅行き(東八道路経由、府02)「天神町幼稚園」下車徒歩8分

 今回は京王線「府中駅」から徒歩で向かいましたので、そのルートを写真を使って紹介します。ゆっくり歩いて20分くらいかかると思いますが、ルート自体はとてもシンプルです。

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京王線「府中駅」の改札内から撮影した写真です。コンビニのある北口方向の改札を出で、右に曲がります。

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少し進むと左側に「出口9」がありますので、ここから外に出ます。

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右前にある階段を下り、そのまま直進します。

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すぐに見えてくる信号を渡り、右に曲がります。

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少し進むと府中警察署があります。このまましばらく直進です。

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「ロイヤルホスト」が見えたらその信号を渡り左に曲がります。

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すぐに道が二つに分かれるので、右側の小金井街道の方に進みます。

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あとはひたすら直進です。途中に美術館の看板がありました。

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しばらく歩いたら「府中の森公園西角」という交差点があります。ここを渡ったところで公園内に入ってもいいのですが、今回はよりわかりやすく説明するためにこのまま直進します。

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少し進むと池があり、その右側が公園入口になっていますのでここから公園内に入ります。

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生い茂った木々の奥に美術館があります。美術館入口は展覧会看板の裏側です。

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館内に入ってすぐ左側にチケットカウンターがあります。展示室は2階ですので、チケットを購入したらエスカレーターで上がります。

 ちなみに、府中駅からちゅうバスを利用される方は、府中駅バスターミナルの7番乗り場からバスに乗ります。この際注意していただきたいのが、7番乗り場からは(多磨町行き)と(押立町行き)と2種類が発着していますので、行き先を間違えないようにしてください。美術館へは、8時から毎時30分間隔で運行している(多磨町行き)に乗ります。運賃はどこまで乗っても100円で、乗車の際に支払います。

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「府中市美術館」で下車したら、目の前に美術館があります。向かって右側に信号があるのでそちらを渡りましょう。ちなみに反対側に府中駅に向かうバス停があります。東府中駅から(府中駅行き)に乗った際もそちらで降ります。写真右端が入口へと向かう通路になっています。

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足腰に自信があれば十分徒歩圏内ですが、このちゅうバスなら運賃も100円ですし非常におすすめです。

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