展覧会情報

【展覧会解説】清心な絵画 松尾敏男展|そごう美術館

日本画家・松尾敏男の画業を概観する没後初の回顧展

 2016年8月4日、90歳で逝去した日本画家・松尾敏男(1926~2016)は、17歳で堅山南風に師事し、日本美術院を主な舞台として活動します。以降、日本美術院賞・大観賞や日本藝術院賞など受賞を重ね、2009年に日本美術院理事長に就任、2012年には文化勲章を受賞するなど、70年余りにわたって日本画壇のトップとして活躍しました。

 没後初の回顧展となる本展は、2015年秋から自身最後の展覧会として松尾自ら構成を練り、出品選定を行ったものです。院展初出品となった20歳の作品から、実質上の絶筆である《玄皎想》まで、約50点の作品によって松尾敏男の画業を振り返ります。花鳥・人物・風景・動物など、幅広いテーマを描いた松尾の世界を堪能することができます。

第1章 新しい日本画を志して

 17歳のときに堅山南風に弟子入りした松尾は、本格的な日本画の手ほどきを受けたのち、従来の日本画を否定することを念頭に、挑戦的ともいえる作品を数多く生み出しました。

 その取り組みの一つが、魚の骨や廃船といったおよそ日本画のモチーフにはなりえないものを取り上げたことです。さらに、洋画のような力強い絵肌を求めて、壁のような厚塗り表現を追求しました。しかし、堅山南風が委嘱された日光東照宮内本地堂の天井画「鳴龍」復元に助手として加わった際、改めて師の運筆にふれたのをきっかけに、絵は「塗る」のではなく「描く」ことだと認識をあらたにします。その成果として、《廃船》で日本美術院賞・大観賞を初受賞、その後も《鳥碑》、《樹海》と三度大観賞を獲得しました。

《廃船》1966年 長崎県美術館蔵

《樹海》1970年 東京国立近代美術館蔵

第2章 内省的な絵画から写実重視の絵画へ

 日本美術院同人となった松尾は、新しいモチーフを求めて海外での取材を開始します。また肖像画にも取り組むようになり、一定の手ごたえを感じたことでこれ以降自身が興味をもった人物を次々と描いていきました。松尾の代名詞ともいえる「牡丹」が繰り返し描かれるようになるのもこの時期です。そしてそれらの作品からは、写生重視への転換が見て取れます。

《南風先生像》1980年 熊本県立美術館蔵

《雨余》1980年 個人蔵

《朝光のトレド》1988年 長崎県美術館蔵

第3章 現代における日本画の可能性を信じて

 数々の作品が高く評価された松尾は、最も期待される中堅画家として日本美術院を牽引する存在となり、後進の画家たちの育成にも努めるようになります。60代を迎えてもその制作意欲が衰えることはなく、毎年のように海外へと向かい新たなテーマを模索しました。

 そんななか1990年代には、伝統的な日本画を思わせる屏風作品を手がけるなど、伝統への回帰ともいえる動きをみせます。当時のインタビューには、「日本人の美意識」「日本人の宗教観」といった言葉が散見され、日本文化の独自性を強く意識していたことがうかがえます。

《サルナート想》1978年 日本藝術院蔵

《夜想譜》1990年 長崎県美術館蔵

《朝つゆ》2001年 個人蔵

第4章 画業の終着点

 晩年には長年の画業を称え、2000年に文化功労者、2012年には文化勲章を受賞しました。また2009年からは亡き平山郁夫の跡を継いで日本美術院理事長に就任し、名実ともに日本画壇の頂点に立ちます。しかし、そのような地位にあっても、花や動物などのモチーフに対してはあくまでも謙虚な態度で向き合うという制作理念はまったく変わることがありませんでした。そして、日本美術院にとって大きな区切りとなった再興第100回院展を見届けるかのように、松尾の長きにわたる画家人生は静かに幕を閉じました。

《翠苑》2001年 衆議院蔵

《玄皎想》2015年 個人蔵

最晩年に生み出した傑作《玄皎想》は撮影可能

《玄皎想》2015年 個人蔵

 自身最後の院展出品となった実質上の絶筆である《玄皎想》は、水墨の濃淡と余白の美を追求した傑作です。水墨画への志向を強めていた最晩年に、松尾は日本画の源流に立ち戻るように本作を生み出しました。そして本展ではこの1点に限り、写真撮影が可能となっています。

開催概要

清心な絵画 松尾敏男展
会期 2018年9月8日(土)~10月14日(日)
休館日 会期中無休(そごう横浜店の休日に準じる)
開館時間 10:00~20:00 ※入館は閉館の30分前まで
会場 そごう美術館
〒220-8510 神奈川県横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店6階

観覧料

  当日券 前売/団体
大人 1,000円 800円
大学・高校生 800円 600円
中学生以下 無料

※消費税含む
※団体は20名以上
※ミレニアム/クラブ・オンカードをお持ちの方は前売料金にて入館可能
※障がい者手帳各種をお持ちの方および同伴者1名は無料。
 ※9月17日(月・祝)敬老の日は65歳以上は無料。

東京・ミュージアム ぐるっとパス2018のご利用で無料で観覧できます。

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